研究課題/領域番号 |
24770101
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
池谷 鉄兵 首都大学東京, 理工学研究科, 助教 (30457840)
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キーワード | In-cell NMR / 蛋白質立体構造計算 |
研究概要 |
本年度は,昨年度より開発を進めてきたベイズ推定を利用したNMR立体構造計算手法をさらに改良し,NOE解析と構造計算を再帰的に実行可能なプログラムの開発に成功した.これにより,本最適化計算により修正された構造に基づいて,NOE帰属も同時に修正することが可能となった. 加えて,本手法の有用性を検証するために,立体構造とNMR緩和データからNOESYスペクトルを逆計算するシミュレーションアルゴリズムを開発した.このシミュレーションにより,実験データに含まれるような曖昧さを完全に排除したスペクトルを立体構造から作成できるようになったため,シミュレーションデータを利用した本構造最適化手法のより厳密な性能評価も可能となった. 実際に,GB1蛋白質の構造を元に13C/15N-NOESYスペクトルをシミュレーションし,ここで得られたグナルのうち,95%を消失させたデータを作成し,従来法と本手法の両方に適用させて,手法の評価を行った.ここから,従来法では正解構造からのRMSD値が4.3Åと収束した構造が得られなかったが,本手法では2.4Åと大幅な改善が確認できた. また,実際の実験データに対する適用可能性も検証するため,in-cell NMR法により測定された生細胞内のGB1蛋白質のスペクトルデータに対して本手法を適応した.解析の結果,従来法では,in-vitroの構造とのRMSD値が1.8Åであったのに対し,ベイズ推定を利用した本手法では,0.7Åと大幅な改善が確認できた. 以上により,ベイズ推定を利用した新規立体構造計算手法は,シミュレーションされたスペクトルに対しても,実際の実験データ対しても,従来法と比較して非常に高精度の解析が可能であることを示すことができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規蛋白質立体構造計算手法の開発では,ベイズ推定を用いた計算手法を複数のデータに適用して検証を行ったが,いずれのデータに対しても来従法に比べて構造計算の精度を大幅に改良できており,期待通りの性能を発揮している.一方で,本手法を一般ユーザが使用可能な形に整備する作業は,まだ不十分であり,次年度にはプログラムの一般公開に向けた作業を進める必要がある.また,専門誌への研究成果の発表も合わせて進める. 新規信号処理法の開発では,圧縮センシングを用いたプログラムは完成したが,従来の最大エントロピー法を用いた手法と比べ,明確な改善がみられておらず,問題の検証が必要である.
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今後の研究の推進方策 |
ベイズ推定を用いた新規立体構造計算手法は,期待通り,ほとんどのデータで,従来法と比べて十分に高精度の構造決定が可能となっており,手法開発の第一段階としては一定の成果が得られた.今後は,この研究成果を専門誌に発表することと,本プログラムを一般ユーザが簡易的に使用可能な形にするために,プログラムの高速化,堅牢性の向上,インタフェースの修正,マニュアル整備等を進めていく.また,現在はNOESYスペクトルデータにのみ本手法が適応可能であるが,さらに化学シフト,Paramagnetic Relaxation Enhancement (PRE)やPseudo Contact Shift (PCS)などのデータにも同様な計算が可能な形に拡張していくことを目標にする. 信号処理法の開発では,プログラムの修正を進め,シミュレーションデータ,および実際のin-cell NMRデータに適用し,プログラムの有効性をより詳細に検証する.
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