鉄はすべての生物に必須の元素であり、病原菌においてはヘムトランスポーター (以下 HT) を用いて感染した宿主のヘム (鉄-ポルフィリン錯体) を取り込み鉄源として利用している。本研究は、病原菌の鉄獲得能を理解することを目的とし、HT がどのようにヘムを認識し、その後どのように解離するのかを X 線結晶構造解析を用いて明らかにする。 すでに得られている HT の結晶の分解能向上のため、HT をノニルグルコシド (NG) という界面活性剤で精製、結晶化を行った。その結果、申請時に 5.0 ~ 4.1 オングストロームだった HT 結晶の分解能を 3.5 オングストロームまで上げることに成功した。さらなる結晶の分解能向上のためオクチルグルコシド (以下 OG) という界面活性剤での精製を試みた。試行錯誤の末、スクロース等の添加材を加えることで OG を使った精製に成功し、結晶化にも成功した。またヘムが結合していると思われる色のついた HT の結晶化にも成功した。これは HT がどのようにヘムを認識しているのかを明らかにするために重要な結晶である。さらに、これら得られた結晶の構造解析のために必須となる SeMet 誘導体の調製にも成功した。 HT の一部でヘムを捕獲する可溶性のタンパク質 PP (Periplasmic protein) の結晶構造解析も同時に進めており、PP が ヘムを 1 つ結合している状態と 2 つ結合している状態のそれぞれの構造解析にも成功した。さらに HT からヘムを受け取る細胞内タンパク質 HmuS の発現と精製にも成功した。HmuS の精製に成功したため HT によるヘム輸送活性測定が可能となった。
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