研究課題/領域番号 |
24770111
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
長江 雅倫 独立行政法人理化学研究所, 糖鎖構造生物学研究チーム, 基幹研究所研究員 (60619873)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | X線結晶構造解析 / 糖鎖生物学 |
研究概要 |
我々の生体では絶えず外界からの脅威にさらされている。このため自然免疫および獲得免疫という優れた防御システムを獲得し、脅威に対抗している。ウイルスや病原菌の表面には多種多様な糖鎖で覆われているため、糖鎖を的確に認識することは免疫系にとって重要である。C型レクチンはカルシウム依存的なレクチンであり、それぞれ外来異物もしくは内因性リガンドなどの特異的な糖鎖構造と結合する。従って、C型レクチン受容体とリガンドとの相互作用を調べることは、免疫系の最初のステップを知ることになり大変重要である。 本課題の目的は、X線結晶構造解析を中心的な手法として自然免疫に関わるC型レクチン受容体についてリガンド認識機構を原子レベルで明らかにすることである。X線結晶構造解析の手順は、次の五つのステップに細分化される。1)目的蛋白質の大量生産、2)目的蛋白質の高純度精製、3)目的蛋白質の結晶化、4)X線回折強度データの収集、5)構造決定、である。 本研究が対象としているC型レクチンはヒトに由来するDCIR, BDCA2, CLEC2の三種類の蛋白質であるが、当該年度にはこれらのすべてについて、大腸菌を用いた大量発現系を構築し、蛋白質の巻き戻し法を用いて活性を保持した蛋白質を大量に生産することに成功した。またカラムクロマトグラフィーを組み合わせることで高純度の精製についても成功した。さらにリガンドを結合していない状態について蛋白質結晶の析出にも成功した。これらは申請当初に予定していた研究実施計画通りであり、計画を概ね達成している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請課題が対象としている三種類のC型レクチン受容体、DCIR, BDCA2, CLEC2について、いずれも大腸菌を用いた大量発現系の構築、リフォールディング法とアフィニティー精製を組み合わせた高純度な精製系の確立、X線回折強度データ収集が可能となる結晶の作成という三つの課題を克服することができた。これらはX線結晶解析の一連の実験の中でボトルネックになり得る箇所であり、これらを克服できたことは当初の目的を達成するうえで極めて重要である。 今後はリガンド認識機構の解明に向けて複合体の構造解析に取り組む必要がある。課題の達成に向けては高純度の糖鎖リガンドが大量に必要であるが、申請者らは既に化学合成などの手段によって入手済みである。申請者はこれまで複数の糖鎖複合体の構造解析に携わった経験があり、これまで培った実験結果を応用することで研究計画は充分に達成可能である。 このため現在までの達成度は概ね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の達成に向けて、本年度はリガンド非結合型結晶に関してX線回折強度データの収集および構造決定、モデル構築などを行う予定である。本研究の目的であるリガンド認識機構の解明には、高純度の糖鎖リガンドが大量に必要であり、糖鎖生物学の進展の妨げとなることが多い。しかし申請者は、既に化学合成等によって充分量を確保しており、課題の遂行に支障がないように留意している。本年度はこれらの糖鎖リガンドを用いて蛋白質とリガンドとの複合体の結晶化を行い、X線回折強度データを収集し、構造決定、モデル構築などを行う予定である。また本年度はこれまでの一連の研究で得られた成果を公表すべく、投稿論文の執筆および学会発表などを積極的に行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究課題の達成には、高純度の蛋白質精製が必要不可欠である。一般に蛋白質の精製は、それぞれの蛋白質に固有の性質を利用するため、試行錯誤が必要である。本研究で取り扱う三種類の蛋白質については、当初精製系が確立されていなかったため、蛋白質精製装置の費用を計上していた。しかし実験の過程で購入の必要がないことが判明した。このため次年度未使用金として1,746,555円が生じた。 本年度は課題の遂行に向けて、次年度未使用金と併せて主に消耗品費として研究費を使用する。まず蛋白質の大量調製は大腸菌用培地、抗生物質などを購入する。また蛋白質の精製には、アフィニティーカラムや陰イオン交換カラム、ゲル濾過カラムの購入を予定している。糖鎖リガンドなどについても複数購入する予定である。また結晶化実験には、結晶化スクリーニング試薬、結晶化ツールなどを購入する。また回折強度データ収集には、大型放射光施設であるスプリング8(兵庫県佐用町)およびフォトンファクトリー(茨城県つくば市)を利用する予定である。このためこれらの施設への旅費を計上する。さらに得られた成果の公表に向けて、学術論文の英文校閲をその他の費用として計上する。また国内外の学会発表のために、旅費を計上する。
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