リサイクリングエンドソーム(RE)の新規な役割を提示するためにREへのRas局在条件の検討、REでのRas活性化機構の解明を目指した。 前年度、H-Rasタンパク質の局在に重要なC末端20アミノ酸の中でも、特に脂質付加部位(181、184番システイン:C181、C184)周辺の6アミノ酸を置換した変異型Rasの局在を解析した。この結果、G180、S183、K185の変異はH-Rasの局在に影響しなかった。一方、C181Lはゴルジ体に局在し、N-RasのRE局在に必要なL184がH-Ras-C181の代替として機能しないこと、M182Aは細胞膜に集積できるがREに安定的に局在できないことが分かった。N-Ras-L184Sのゴルジ体への局在から、RE局在へのL184の寄与が確認できた。すなわち、Rasが安定的にREに局在するには、C181、M182に加えC184もしくはL184が必要であることを明らかにした。 本年度は、Ras活性化因子であるRasGRP1に焦点を当てた。RasGRP1を発現したところREとゴルジ体に局在した。次に、血清飢餓細胞で野生型RasおよびH-Ras-C181Lと共発現すると、RasGRP1はH-RasおよびC181Lと共にゴルジ体で共局在した。これらゴルジ体に局在するRasはシグナル伝達下流のRaf-Ras結合領域(RBD)と結合できなかったため活性状態に無い。一方、血清飢餓細胞に血清を添加するとC181Lの局在は変化せずゴルジ体であったが、野生型H-RasはREに移行した。さらに、当該条件下でC181LにはRBDが結合できなかったがREに局在するH-Rasと結合した。また、RasGRP1のノックダウンによりREでのRasとRBDの結合は消失した。これらの結果は、RasGRP1がゴルジ体ではなくREでRasを活性化する事象を強く示唆する。 本研究実績より、細胞輸送のみならずシグナル伝達の側面からREの重要性を指摘できる。RasがREに局在するための条件をアミノ酸レベルで解析し、また、Rasの活性化は細胞膜およびゴルジ体で主に行われるとされるこれまでの学説に対し、REの機能面から新規な論証を提案できる。
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