研究課題/領域番号 |
24770124
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
石川 春人 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 講師 (40551338)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 金属タンパク質 / ヘム / 酵素 |
研究概要 |
マラリア原虫は宿主の赤血球内で増殖する際に、ヘモグロビンを分解し栄養分として利用している。この際にヘモグロビンの活性中心であるヘムが放出される。タンパク質から遊離したヘムは細胞毒性を持つことが知られており、マラリ原虫の場合、ヘムを結晶化することで無毒化している。マラリア原虫におけるヘム結晶化は創薬のターゲットとにもなっている重要なプロセスであるにもかかわらず、その詳細な機構は明らかとなっていない。そこで本研究では、近年マラリア原虫内で発見されたヘム結晶化触媒酵素Heme Detoxification Protein (HDP)の反応機構を分光学的手法と遺伝子工学的手法を組み合わせて検討した。また、吸血性昆虫であるサシガメから発見されたヘム結晶化酵素Alpha-Glucosidase (AGLU)についても反応機構を調べた。 ヘム結晶化反応の中間体において、ヘムがタンパク質内部のアミノ酸残基に配位結合することが各種分光法により明らかとなり、部位特異的アミノ酸置換法を利用して活性中心に存在するアミノ酸残基の同定を薦めた。その結果、HDP内部に存在する2つのヒスチジン残基が中間体におけるヘム結合に関与していることが示された。また、それらのヒスチジン残基を他のアミノ酸残基に置換した場合、ヘム結晶化活性が半分程度まで減少することも明らかとなった。この結果は、ヘム結晶化を阻害する薬剤開発に重要な指針を与える結果である。 またAGLUについても検討を開始した。これまでAGLUについては再構成タンパク質の報告例がなかったため、新たに発現・精製系を構築し、ヘム結晶化活性を持つタンパク質を得ることに成功した。分光学的解析ではHDP同様ヒスチジン残基の関与が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
HDPに関しては当該年度の計画どおり紫外可視吸収測定、共鳴ラマン測定、電子スピン共鳴測定を行い、ヘム結晶化反応に関与しているアミノ酸残基がヒスチジンであることが明らかとなった。そこで、HDP内部に存在する9つのヒスチジン残基をそれぞれヘムに結合できないアラニン残基に置換した変異体を作成し、活性測定および各種分光測定を行った。その結果、2つのヒスチジン残基では、ヘムの結合に由来する吸収極大波長に変化が観測され、活性についての低下も観測された。以上の結果よりHDPの活性中心のアミノ酸残基の同定に成功した。当初の予定では、活性部位のアミノ酸残基の同定は平成25年度までを予定していたが、平成24度内に完了することができた。また、平成25年度に予定していたX線結晶構造解析に向けた試料調製についても検討を行ったが、現在のところ立体構造解析に十分な結晶は得られていない。今後は結晶化条件について検討を行う予定である。 AGLUについても、当該年度予定していた活性を持つ再構成タンパク質の調製に成功し、紫外可視吸収測定、電子スピン共鳴測定まで行うことができた。その結果、HDP同様にヒスチジン残基が活性に関与している可能性を示唆する結果を得た。共鳴ラマン分光測定については現在検討中であるが、測定に必要な試料の調製には成功しており、平成25年度の早い段階で実行に移せると考えている。HDP同様に、活性に関与していると予想されるヒスチジン残基に変異を導入することで、活性中心に存在するアミノ酸残基の同定を推進する予定である。以上示したように、ほぼ当該年度計画通り進行しており、一部平成25年度計画分まで研究を推進することができた。
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今後の研究の推進方策 |
当初の平成25年度研究計画では、HDPおよびAGLUに関して反応機構解析を推進し両者を比較することで、より詳細なヘム結晶化機構について検討を行う予定であった。しかし、HDPに関しては当初の予定以上に研究が進行しており、既に活性中心の同定に成功した。そのため平成25年度は、まずAGLUの反応機構解析に重点を置き研究を行う。特に、HDPで有効であった、活性中心に存在するアミノ酸残基の部位特異的置換とヘム結晶化活性を比較する手法を利用することで、効率的に活性中心の同定を推進したい。平成24年度の分光学的解析の結果からは、少なくとも一つのヒスチジン残基の関与が予測されており、活性中心に存在するヒスチジン残基の同定から研究を行う。また、HDPと異なる点については、ヒスチジン残基以外の関与が示唆されており、こちらに関しても分光学的解析と部位特異的アミノ酸置換を利用することで検討を行う。両者の活性中心の構造を明らかにし比較することで、ヘム結晶化反応の分子メカニズムを明らかにしていきたい。 また、X線結晶構造解析についても再検討を行い、立体構造解析の観点からもヘム結晶化機構の分子レベルでの解明を目指して研究を推進する。さらに、マラリア原虫の近縁であるタイレリア内に存在するHDP類似タンパク質についても、再構成タンパク質としての調製をめざしHDPと比較検討することを計画している。タイレリア属はマラリア原虫に類似したライフサイクルを持っているが、ヘム結晶化反応の報告はない。このタイレリア属に存在するHDP類似タンパク質のヘム結晶化反応活性を調べることで、マラリア原虫におけるHDPの役割および反応機構をより詳細に検討することが可能になると考えられる。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初参加予定であった平成24年度の国際会議に学務の都合上参加することが不可能となり、研究費の使用を保留した。そのため生じた支出差引額については、平成25年度の学会発表に利用する予定である。HDPの研究は当初計画より順調に進んでいるが、新たにタイレリア属のヘム結晶化タンパク質の研究を開始する予定である。そのため平成25年度における研究費の使用計画に大きな変更はなく、タンパク質の発現・精製用試薬などの物品費および学会発表の旅費に使用する予定である。
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