細胞が紫外線・オキシダントなどのストレス環境にさらされると、mRNA塩基あるいはmRNA鎖は損傷を受ける。蛋白質コード領域中にこういった損傷が現れると、リボソームは翻訳途上で停止する。その結果、C末端側が欠失した異常蛋白質が発現し、細胞にダメージを与える。細胞はこのような損傷mRNAを速やかに分解することにより、ストレス環境に迅速に対応すると想定される。 本年度は、損傷mRNAの分解経路について解析を進めた。損傷mRNA を模倣するin vitro合成mRNAをHeLa細胞に導入し、その分解速度を検討した。核内転写過程を経て産生されてmRNAは、ポリA鎖分解酵素Caf1およびPan2によりポリA鎖が短縮化したのち、mRNA本体が分解を受ける。興味深いことに、導入したmRNAはポリA鎖短縮化を経ずにmRNA本体が分解を受けることを見出した。この分解は翻訳阻害剤シクロヘキシミドにより抑制されたことから、翻訳と共役していることが示唆された。mRNA本体の分解では5’-3’mRNA分解においてはXrn1が、3’-5’mRNA分解においてはエキソソーム複合体が機能する。Xrn1および3’-5’mRNA分解活性を担うRNase Rファミリーに属するDis3のノックダウンにより、導入したmRNAの分解が抑制された。また、エキソソーム複合体結合因子であるRNAへリカーゼSki2およびMtr4のノックダウンにより、同様に導入したmRNAの分解が抑制された。以上の結果から、損傷mRNAは翻訳依存的に5’-3’および3’-5’mRNA分解機構を動員することにより速やかに分解されることが示唆された。
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