本研究の目的は、脳と心臓に発現する細胞内タンパク質NDRG4の結合分子を同定し、NDRG4の生理的役割を明らかにすることである。昨年度は、脳から膜画分を調製してアフィニティ精製を行い、NDRG4の結合分子としてNa+/K+-ATPase (NKA) α3サブユニットを同定した。哺乳類のαサブユニットには4種のアイソフォームが存在するため、今年度はNDRGファミリーであるNDRG1~NDRG4とNKA α1~α4サブユニットのあらゆる組み合わせで結合能を調べた。HeLa細胞にFLAGタグ融合NDRGとMycタグ融合NKAαサブユニットを強制発現し、Anti-FLAG抗体アフィニティゲルで免疫沈降した。共沈物をウエスタンブロットで調べた結果、いずれのNDRGメンバーも、全てのNKAαサブユニットに結合したことから、NDRGファミリーは様々な細胞でNKAの機能を調節していると考えられた。一方、NDRG4欠損マウスでは、心電図P波が延長し、水泳ストレスで誘導される心拍数の低下が抑制されていた。そこで、NDRG4が関わるネットワーク動態を明らかにするために、通常飼育および水泳ストレス負荷後の野生型とNDRG4欠損マウスの心臓ホモジネートからRNAを抽出し、変動する遺伝子群をDNAマイクロアレイで調べた。得られたデータを解析した結果、水泳ストレス負荷後に、野生型のみおよびNDRG4欠損マウスのみで増加あるいは減少する遺伝子が明らかになったが、Gene Ontology解析では機能的に関連する遺伝子群は見出せなかった。本研究により、NDRG4は脳の神経細胞や心筋細胞に発現し、NKAと相互作用することによってこれら細胞の生理機能を制御していると考えられたが、詳細なネットワーク動態やNDRGファミリーとαサブユニットの細胞特異的な結合の選択性については今後の研究が待たれる。
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