研究課題/領域番号 |
24770141
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
中村 修一 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90580308)
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キーワード | 分子モーター / べん毛モーター / メカノケミカルサイクル / 一分子計測 / 回転ステップ |
研究概要 |
本研究では、プロトン駆動型サルモネラべん毛モーターにおけるエネルギー変換機構を素過程レベルで理解することを目指して、高輝度な金属ナノプローブと超高速センサーを組み合わせた一分子ナノ計測システムを構築し、べん毛モーターのエネルギー変換素過程に相当する「回転ステップ」の検出を目指す。 <野生型べん毛モーターのステップ検出>直径100 nmの金ナノ粒子がプローブとして繊維に付着され、100 Hz程度で回転するべん毛モーターにおいて、ステップ様の回転を検出することができた。5-10 マイクロ秒間隔での高速サンプリングにおいても、レーザーを用いると十分な信号が得られることが分かった。繊維へのプローブ標識法の改良について、大阪大学の協力を得るとしていた。この点について、大阪大学のグループが、べん毛繊維とモーター基部体の間に存在するフックというバネのような構造に変異を導入し、固いフックを持つ変異体を作製することに成功した。これにより、飛躍的な時空間分解能の向上が期待される。 <突然変異型べん毛モーターの計測>べん毛モーターのエネルギー変換反応過程に異常が生じた突然変異型べん毛モーターの計測を進めるとしていた。これについて、プロトン結合部位である固定子蛋白質MotBのAsp-33(アスパラギン酸)がGlu(グルタミン酸)に置換された突然変異体の回転速度揺らぎが顕著に大きくなること(Che and Nakamura et al., 2014)を明らかにした。 <金属ナノプローブの検討>金と銀の合金ナノ粒子の作製を検討していたが、直径数ナノメートルの金コロイドを多数凝集させて球状に仕上げた新しいプローブが発表されたので、これの使用を試みた。25年度は、この新プローブをべん毛繊維に付着させ、回転を観察することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
25年度には、前年度(24年度)に構築した顕微計測システムを用いた野生型べん毛モーターの回転ステップ計測、突然変異型べん毛モーターの計測、金属ナノプローブの検討を行うことを予定していた。24年度の研究において、「通常およそ10個存在する固定子(トルク発生装置)を1個まで減らす工夫が必要である」としていたが、ごく最近の研究成果によって、低負荷条件下では自発的に固定子数が減少することが明らかとなった(Lele et al., 2013; Castillo and Nakamura et al., 2014)。回転ステップ検出は、ごく低負荷の条件で行われるため、特別な操作(遺伝子操作など)をする必要がないことが判明した。これは、想定外であったが、作業効率を大きく向上させる重要な情報が得られたと考えている。構築したシステムを用いて、野生型べん毛モーターにおけるステップ様動作を検出することにも成功した。また。べん毛軸構造の弾性を変化させる変異実験も成功した。これらの点は、予定通りに進行したと言える。しかしながら、回転軌跡がいびつなものが多い。これは、光学系の精度が十分ではなく、顕微鏡像が理想的な位置および角度でセンサー表面に投影されていないことが理由と考えられる。この点は現在改良中である。MotBに変異が生じたMotB(D33E)モーターの新たな性質(負荷依存的にプロトン透過活性が変化する性質)が明らかになったことは、今後の研究においても注目すべき点である(Che and Nakamura et al., 2014)。新たなプローブについては、当初考案していた合金プローブとは異なるが、より実験に適したプローブを用意できる可能性が期待できることとなった。 以上の進捗状況を総合的に判断し、本年度の達成度を「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
サルモネラ菌べん毛モーターの回転ステップ検出を継続する。まずは、べん毛繊維にプローブを付着させた細胞を用いて、可能な限り解析が行いやすい軌跡を示すデータをより多く集めることを目指す。また、25年度に作製された固いフックを持つ変異型サルモネラ菌べん毛モーターのフック部分へのプローブ標識の条件を検討し、この細胞を用いた計測を開始する。フックの長さはおよそ55 nmに制御されているため、直径100 nmのプローブは付着しても回転しない可能性がある。プローブのサイズも含めた検討を行う予定である。 25年度には、高速4分割フォトダイオードセンサーを用いた計測を試みた。ステップ様回転は検出できたが、4つのセンサー中心に極微小な金ナノ粒子像を精度よく投影することは難しく、この点が作業効率とデータの質をいくらか低減させた。26年度には、センサーによる計測システムの改良を進めるとともに、高速撮影が可能なカメラの導入を検討する。センサーに比べてデータ容量が大きくなることがデメリットであるが、可能な限り撮影時間を短くすることにより、データの転送速度などの問題点を解決したいと考えている。このようにして得られた実験データに対して、主に反応速度論的手法を用いた解析を行い、反応サイクルの律速段階などの議論を進めていく予定である。細菌べん毛モーターにおいては、直接計測された素過程の実験データに基づく詳しいエネルギー変換の議論が未だ行われていないため、本研究の成果は、新しいナノマシンの動作機構を明らかにするブレークスルーとなることが期待できる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は、25年度の研究を効率的に進めたことにより生じたものである。 26年度には、べん毛モーター変異体の作製やプローブ標識条件検討で必要な分子生物学的実験を多く行う予定である。そのため、次年度使用額は26年度請求額とあわせ、主に分子生物学的実験のための試薬購入費(PCR用試薬、合成DNAなど)として使用する予定である。
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