神経細胞の分化のモデル細胞であるPC12細胞内で、細胞小器官であるミトコンドリアを蛍光色素で染色し、重心運動を観察した。細胞内でミトコンドリアはレールである微小管に沿ってキネシンやダイニンなどのモータータンパク質によって輸送される。この非平衡定常状態の重心運動に対し、非平衡統計力学分野の代表的な関係式である揺動散逸定理を調べた。ミトコンドリア重心の揺らぎと、人工的に細胞内に導入したビーズの揺らぎを比較し、ミトコンドリアの重心揺らぎに関するEinstein関係式の破れの度合いを調べた。混み合った細胞の中では熱揺らぎに起因しない様々な揺らぎが存在するため、物理法則が成立しない。このことを蛍光顕微鏡観察によるミトコンドリア重心の揺らぎ解析と蛍光相関分光法による細胞内に導入したビーズの粘性測定から定量的に明らかにした。 後続の神経細胞を用いた研究では、PC12細胞で観察された揺動散逸定理の破れと揺らぎの定理を組み合わせた新しい理論で、ミトコンドリアやエンドソームなどの細胞小器官を輸送するモータータンパク質の数を非踏襲に測定する計画である。先行研究では光ピンセットを用いた細胞内小器官のストール力測定からモータータンパク質の数を議論しているが、本研究では蛍光顕微鏡観察による重心揺らぎ解析だけからこれを目指す。本研究によりpreliminaryなデータを得たので、結果の検証が今後の課題となっている。
|