研究課題/領域番号 |
24770145
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
上野 裕則 東北大学, 国際高等研究教育機構, 助教 (70518240)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 繊毛・鞭毛 / 気管 / 精子 / 電子顕微鏡 |
研究概要 |
近年、真核生物の「繊毛・鞭毛」と呼ばれる細胞小器官が、外部流体を形成するために周期的に運動し、目的の場所に移動するための駆動力(エンジン)としてだけでなく、外部からの化学・力学的な環境変化を感知するための「細胞のセンサー」でもある事が分かってきている。また、原発性繊毛機能不全症と呼ばれる様々な疾患にも関わるため、医学・生理学的にも重要である。本研究課題では、主に哺乳類マウスを用いて、気管繊毛、精子鞭毛、一次繊毛の3つの繊毛・鞭毛に着目し、その3次元構造をクライオ電子線トモグラフィー法によって解析すると同時に、その構造と運動性の違いの関連性を検証したいと考えている。現在まで、東北大学でマウスの精巣上体尾部から運動性を持つ精子を単離し、光学顕微鏡観察で運動性を確認後、膜処理を行い軸糸構造を単離出来た。この精子の除膜サンプルを九州大学生体防御医学研究所でクライオ電顕サンプルを作成し、加速電圧300kVのFEI製Tecnai Polara を用いて電子顕微鏡観察と3次元構造解析のための傾斜情報の取得を試みた。その結果、複数の傾斜情報サンプルを得ることに成功し、3次元再構成を行うことによって軸糸構造やその周辺にあるOuter Dense Fiber (ODF)の3次元構造を確認することが出来た。軸糸構造内には外腕ダイニンや内腕ダイニンの他、ラジアルスポークや中心対微小管構造も確認することが出来たが、今後さらに詳細な構造解析を行う予定である。一次繊毛に関しては、現在までNIH3T3細胞の培養システムを構築出来、効率的に継続して培養する研究環境を整えることが出来た。今後は精子鞭毛の画像解析を行いより詳細な構造解析を行うと同時に、一次繊毛の3次元構造解析を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
応募時の研究目的に沿った研究計画の通りに、概ね順調に研究が進行している。平成24年度の当初の目標にあるように、クライオ電子線トモグラフィー法によるマウス精子鞭毛の傾斜情報を得ることに成功し、その傾斜情報から画像解析によって3次元再構成を行い、3次元構造を得ることに成功した。この3次元構造は今後画像解析を工夫することによって、当初考えていたよりも、さらに分解能の高い構造を得ることができるのではないかと期待している。申請者は、マウスの精巣上体尾部の摘出や精子の単離、精子の運動の光学顕微鏡解析などは初めての経験であったが、問題なく達成することができた。哺乳類の精子鞭毛の3次元構造は、今までに全く報告がなく、本研究で世界で初めての新たな知見が得られるものと期待される。また、当初の計画にはなかった、鞭毛の外側の構造であるOuter Dense Fiber(ODF)の構造も観察することができ、新しい研究の道筋も得ることが出来た。一次繊毛に関しては、当初の予定通り、一次繊毛収集、サンプル調整のための研究設備の構築や培養技術の習得など、こちらも申請者には初めての経験であったが、問題なく達成することができた。よって、本研究の達成度合いは、おおむね順調に進んでいると言って良い。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は昨年構築した培養システムと培養技術を駆使し、NIH3T3細胞から一次繊毛の単離と収集を行う。NIH3T3は比較的増殖速度が速く、早い周期で一次繊毛の回収を行うことができるはずである。先ずは、培養シャーレ、5~10個分からどの程度の効率で一次繊毛が単離できるのかを試みる。単離方法は2通り考えており、1つはポリエルリジンを塗ったガラス板を細胞表層(一次繊毛のある面)に軽く押し当て、ガラス表面に吸着させ単利する方法と、もう一つは、Caショック法により単離する方法を試みる。どちらか効率の良い方法で、その後の研究を進める予定である。ある程度一次繊毛が回収でき次第、昨年と同じく、九州大学の生体防御医学研究所にサンプルを持っていき、クライオ電子顕微鏡のための凍結サンプルを作る。凍結サンプルは、やはりFEI製Tecnai Polara を用いて傾斜情報の取得を試みる。細かな作業は精子の場合と全く同じやり方で行えるものと予想している。傾斜情報が得られたら、当研究室の画像解析システムで3次元再構成を行い、3次元構造を得る。得られた構造は、気管繊毛、精子鞭毛と比較し、その詳細な構造の違いについて調べる。このことにより、繊毛・鞭毛の多様な運動様式の一端が解明されるものと期待している。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費については、主にサンプル調整のための試薬代、プラスチック消耗品代、電子顕微鏡観察のためのピンセット、観察用グリッドなどの消耗品類、細胞培養のための培地の費用、電子顕微鏡観察のための九州大学への出張費などに当てる予定である。また、研究成果を広くアピールするために学会発表のための出張費用や関連する研究者に意見や議論をするための出張費用などにも使用する。また、投稿論文や関連書籍への掲載料など、研究成果発表のための費用として使用する予定である。
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