研究課題
本研究では、プロトン駆動力によるATP合成酵素(FoF1)の回転運動を可視化し、その作動機構を徹底的に解明することを目的としている。FoF1はタンパク質でできた分子モーターの一種で、細胞膜に埋め込まれたFoと水溶性のF1の2つの回転モーターから構成される(図1)。Foは細胞膜の両側のプロトン濃度差と電位差で形成される“プロトン駆動力”を原動力とし回転する。また、F1は化学反応と力学運動が可逆的な共役関係にある稀有な性質を有しており、ATP加水分解を駆動力とし自律的に回転するだけでなく、外力によって逆方向に強制回転させるとATP加水分解の逆反応であるATP合成を行うことが知られている。ちなみに、生体内のFoF1ではプロトン駆動力によるFoの回転によりF1は強制的に逆回転させられ、生理的に重要なATPの合成を担っていると考えられている。上述の稀有な性質と生理的な重要性から、FoF1は長年に渡り世界中の研究者から強い関心を惹いている。この興味深いFoF1の作動原理を解明すべく様々な実験手法が用いられてきたが、その中でも回転運動の1分子計測は中心的な役割を果たしてきた。ATP加水分解時のFoF1ならびにF1単独の1分子計測はすでに達成されている。一方、プロトン駆動力で回転する様子の1分子計測は達成されていない。本年度、私は当科研費の支援を受け、FoF1のプロトン駆動回転を直接可視化する計測系の開発をし、FoF1のプロトン駆動回転の作動原理の一部を解明することに成功した。本研究成果はNature Communications誌に掲載された。
2: おおむね順調に進展している
昨年度の研究は2つの項目から構成される。1)FoF1のプロトン駆動回転の直接可視化技術の開発。2)FoF1の酵素活性の1分子計測技術の開発。1)に関しては、上述の通り達成され、その研究成果はNature Communications誌に掲載された。2)に関しては、開発中ではあるが、本年度中に完成する見通しが立っている。
現在のペースを守り、申請課題をすべて達成したい。特に本年度は酵素活性の1分子計測技術の確立に注力していきたい。
研究費は主に酵素活性の1分子計測用のマイクロデバイスの試作に利用する予定である。
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Nature Communications
巻: 4 ページ: 1631
FEBS Letters
巻: 8 ページ: 1030-1035
10.1016/j.febslet.2013.01.063