本研究は、細胞の内部環境を再現した微小反応場において、その内部で起こる生化学反応に対して反応場サイズが与える影響を実験的に明らかにすることを目的としている。前年度までに、新奇な設計コンセプトに基づいて作製したガラス製マイクロチャンバーを用いて、生化学反応を高い精度で観察することに成功している。今年度は、体積の異なるガラス製マイクロチャンバーでタンパク質合成を行い、生化学反応が反応場サイズに影響を受けることを実験的に明らかにした。 ガラス製マイクロチャンバーに再構成無細胞翻訳系を封入し、二種類のタンパク質(βグルクロニダーゼ(GUS)、βガラクトシダーゼ(GAL))の合成反応をそれぞれ観察した。GAL、GUSはいずれも四量体を形成して初めて活性を持つ酵素であるが、律速段階の違いから合成反応はそれぞれ一次反応、四次反応であることが分かっている。タンパク質合成の様子は、酵素反応の進行に伴って生成される蛍光物質を通して行った。実験の結果、マイクロチャンバー内での反応でも、GAL、GUSの合成反応はそれぞれ一次反応、四次反応であることが確認された。 次に、体積の異なるマイクロチャンバーにDNAを平均70分子封入し、再構成無細胞翻訳系を用いてGALまたはGUS合成を行った。DNA以外の反応因子は体積に依らず一定濃度で封入した。実験の結果、GAL合成では反応の様子に体積依存的な違いは見られなかったが、GUS合成では体積が小さいほど反応が早く進行することが分かった。この結果をもとに、GUS合成では反応産物の収量が最大となる最適なチャンバー体積が存在することを明らかにした。考察の結果、これらの現象はGUS合成反応だけではなく高次反応一般で普遍的に現れる可能性が示唆された。 以上の成果は、論文、学会発表を通して公表した。
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