研究課題/領域番号 |
24770160
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
市村 垂生 独立行政法人理化学研究所, 先端バイオイメージング研究チーム, 研究員 (50600748)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 国際情報交流 |
研究概要 |
当該年度は、可逆的飽和性光学蛍光遷移(RESOLFT)効果を利用した超解像顕微鏡装置の構築に取り組んだ。ピコ秒半導体レーザー(488nm)、フェムト秒チタンサファイアレーザー励起のオプティカルパラメトリック発振器(OPO)を、蛍光励起光源および不活性化光源として用いた。これらを、自作のオートコリレーターにより時間空間的に同期して、倒立顕微鏡に導入した。不活性化光は空間光変調器により焦点形状をドーナツ型にして、励起光焦点周囲の蛍光を不活性化することで、分解能の向上を図った。また、高感度の相関分光計測のために、高速シングルフォトンカウンティング検出器を導入し、検出光学系および相関演算システムを構築した。今後、本システムにより、実際にGFPやDronpaなどの蛍光タンパク分子を用いて空間分解能の評価、および相関分光検出の性能の確認を進める。 さらに、本顕微鏡システム構築の過程で、新たに従来までに無い新規超解像イメージングコンセプトを提案し、理論的立証に取り組んだ。RESOLFT効果を基礎とする超解像法では通常、上述のように、ドーナツ形状の不活性光ビームにより焦点周囲の蛍光分子を不活性化して空間分解能を向上する。不活性化効果の飽和により非線形性が生じ、空間周波数帯域が広がると理解される。今回、RESOLFT効果における活性化・不活性化の過渡応答においても非線形性が生じることを見出した。これを利用して、レーザー光の時間的変調により、空間周波数帯域を広げることができることを理論的に立証した。従来の方法では飽和を必要としているため、高強度のレーザー照射が必要であり光ダメージや三重項準位への遷移の問題が不可避であったが、新手法では、この問題を回避できる。次年度は、従来法、新手法の両方を比較しながら、細胞内微小領域の計測に適した方法を見極めたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、蛍光分子のRESOLFT効果を利用して、回折限界を超えたナノ分解能で生体細胞内の微小領域の分子動態計測を実現することを目的としている。装置系の構築及び計測条件の最適化が目的達成のための重要な課題である。当初の予定では、当該年度中に装置構築を完了し空間相関分光計測システムの構築まで到達する予定であったが、現時点までの進捗は、装置の構築までにとどまっている。これは、当初の予想以上に、光学系調整や機器自作に時間を要したためである。次年度は、この遅れを取り戻し、研究目的達成を目指して実験に取り組む予定である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である25年度は、当初の予定通り、これまでに構築した装置によりナノ領域の相関分光計測に取り組む。生体細胞内での計測を実現するためには、光ダメージを軽減するために照射レーザー光強度や走査速度などの最適化が不可欠であるため、前半はこの課題に集中して取り組む。その後、生物ターゲットとして、脳神経細胞およびES細胞を用いることを予定している。脳神経細胞の計測では、シナプス構造内の神経伝達物質の動態をナノ分解能でとらえることを目指す。また、ES細胞の計測では、発生・分化の過程における核内クロマチン構造の動的振る舞いの変化を計測することに挑戦する予定である。 また、これまでに、RESOLFT効果を基礎とした新たな計測スキームを提案している。本手法は、当初予定していたスキームに比べて本研究の目的達成に適していると考えられる。当初予定の従来手法と新手法を比較しながら実験を進め、生体細胞内の微小領域計測を実現したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度の研究にやや遅れが生じたため、使用を予定していた予算の一部を25年度に使用する。25年度に計上していた額と合わせて、25年度の研究に必要な光学部品および試料調整用の化学薬品など、消耗品の購入に使用する予定である。また、外部発表のための旅費としても使用する。
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