研究課題
若手研究(B)
本研究では,細胞内情報伝達反応が収斂する因子の一つ“RAF”分子の構造分布を指標に,細胞の増殖、分化、生存、ガン化の応答を左右する細胞状態を定義する。この定義を指標に、細胞状態を操作しながら細胞培養し、外部刺激に対する細胞の応答を予測および制御する。これにより、細胞の増殖、分化、生存、ガン化の運命決定の機構を明らかにすることが目的である。本年度は以下の3点を中心に研究を実施した.1,細胞質中のRAF分子の構造の1分子可視化解析法の確立.細胞質に存在するRAF分子の構造を1分子ごとに検出するため,バースト解析システムを構築した.バースト解析とは、細胞に共焦点照明系を導入し、この励起体積を蛍光プローブが横切る際に発生する光子のバーストを単一光子計測する方法である。蛍光プローブとしてFRETの原理を用いたRAFの構造変化プローブを導入すれば,1バースト中のドナーとアクセプター蛍光分子由来の光子数の比からFRET信号を算出し,RAFの構造を見積もることができる。今年度は,バースト解析と全反射顕微鏡観察を同一細胞に対して実現する顕微鏡システムを構築した.2,RAF分子の構造分布の計測と細胞状態の定義.刺激前の細胞中のRAF分子の構造分布の平均値とEGF刺激後のRAFの局在変化応答との相関関係を多数の細胞で解析することで,RAFの構造を指標とする細胞状態を定義した.EGF刺激は,細胞増殖・生存・分化に重要な細胞外刺激の1つである.3,細胞状態と細胞応答の相図の作成.EGF刺激後のRAFの局在変化の有無を細胞応答と捉えて、細胞状態と細胞応答の相図を作成した。これらの研究成果を学会やシンポジウムで発表し,多くの反響を得ている.開発したFRET計測系や解析方法の一部を応用し,異分野間の共同研究を行い,病気に関わる糖タンパク質の細胞内動態解析を実現する重要な研究に貢献することができた.
2: おおむね順調に進展している
今年度の目標は,情報処理タンパク質RAFの構造を細胞内で1分子ごとに検出する光学系の構築および生物試料の準備も含めたRAFの構造分布の計測系の確立と,RAFの構造を指標にした細胞状態の定義および細胞状態と細胞応答の相関図の作成である.本年度は,これらの目標をおおむね達成できた.1,細胞質中のRAF分子の構造の1分子可視化解析法の確立.RAF分子の構造を1分子ごとに細胞内で検出するバースト解析システム(研究実績の概要を参照)を構築するため,全反射蛍光顕微鏡システムに、共焦点光学系とシングルフォトンカウンティングモジュールを組み込み、バースト解析と全反射顕微鏡観察を同一細胞に対して実現する顕微鏡システムを構築した.2,RAF分子の構造分布の計測と細胞状態の定義.1で構築した顕微鏡システムを用いて,細胞質中のRAFの構造を計測し,RAFの平均構造(構造分布の平均値)を指標に,細胞の増殖・分化・生存・死に関係する細胞状態を定義した.この定義作成の際には,EGF刺激後のRAFの局在変化応答と刺激前のRAFの平均構造の相関関係を考慮した.3,細胞状態と細胞応答の相図の作成.EGF刺激後のRAFの局在変化の有無を細胞応答と捉えて、先に定義した細胞状態と細胞応答の相図を作成した。この相図作成に伴い,本研究の新たな問題点が明確になり,研究計画当初に予想していたいくつかの問題点のうち次年度に取り組むべき課題が具体化された.
今年度構築した顕微鏡システムや細胞状態と細胞応答の相図を用い,次年度は本研究の実施計画に沿って,RAFの構造を指標に細胞状態を検出しながら、細胞への事前刺激やRAFのリン酸化に影響を与える因子の導入により細胞状態を操作し、細胞応答を制御することを目指す。同時に,細胞状態を規定する細胞内外の要因を特定することにも取り組む.本研究の最終目的である細胞応答の確率的な性質を規定する基本原理の解明や、細胞応答の予測や制御は、細胞のガン化機構の解明や、ES細胞やiPS細胞を用いた再生医療の発展の基礎となる重要な課題である。これらの分野に貢献できるよう,引き続き遅延のないよう研究を実施する。
該当なし
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Nature Communications
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10.1038/ncomms1906
Wiley Interdiscip. Rev. Syst. Biol. Med.
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