研究課題/領域番号 |
24770170
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
橋本 吉民 東京薬科大学, 生命科学部, 助教 (50616761)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | DNA複製フォーク / レプリソーム / 組換え修復 / アフリカツメガエル卵抽出液 / 複製再開 / CMGヘリカーゼ / DNA損傷 |
研究概要 |
本研究の目的は、崩壊した複製フォークおよびレプリソームが組換えによって再生される仕組みについて明らかにすることである。GINS複合体はレプリソームにおいてCMGヘリカーゼ複合体の一員として働く因子であるが、DNA損傷の存在下ではGINSサブユニットの一つであるPsf2のC末端がATR/ATMによるリン酸化を受けることが知られている。このリン酸化がレプリソームの動態制御に関与しているのではないかと考え、Psf2のリン酸化部位に変異を導入した組換えGINS複合体を作製して、アフリカツメガエル卵無細胞系による解析を行った。内在性GINSを免疫除去した卵抽出液に組換えGINSを添加して複製活性を調べた結果、DNA損傷の有無に関わらず、野生型とリン酸化変異型との間で大きな差は見られなかったことから、ゲノム全体的なレベルでの複製進行にはPsf2のリン酸化は必要ではないと考えられる。しかし、卵抽出液からの共沈降解析では、野生型および擬似リン酸化型(グルタミン酸置換)とCMGヘリカーゼの一員であるCdc45が共沈降したのに対し、非リン酸化型(アラニン置換型)とは共沈降しなかったことから、個々のレプリソームにおいては、Psf2のリン酸化がCMG複合体の安定性を制御している可能性が示唆される。また、DNA鎖間架橋(ICL)誘導剤であるマイトマイシンにより複製進行を阻害した条件でクロマチン結合タンパク質の解析を行った結果、変異型GINSの存在下ではMCM9の結合が低下していることを見出した。MCM9はMCM8と複合体を形成してICLの組換え修復に関与すると考えられている因子であり、レプリソームがICL部位と衝突した際のMCM8-9複合体のリクルートにPsf2のリン酸化が関与する可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
H24年度の計画は本来、複製フォークの崩壊と再生を再現できる系の構築が第一目標であったが、この点について進展が遅れている。アフリカツメガエル卵の粗抽出液を用いた系で個々のフォークの停止と再開を検出するためには、DNA combing法で展開したDNAファイバーを顕微鏡観察する必要があるが、技術的な難易度が高く、習熟するために時間を要している。また、通常の粗抽出液から膜画分を除いたサイトゾル(HSS)と核画分の抽出液(NPE)を用いてプラスミド上でフォークの崩壊と再生を再現する系の構築についても、NPEの調整が律速となってるのが現状である。そのため、「研究実績の概要」で記したように本来、H25年度以降に実施する計画であったレプリソーム因子の動態や修復系因子との関連などの解析を前倒しして行いつつ、DNA combing法やNPE調整などの習得に努めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
H24年度の研究結果から、Psf2リン酸化はDNA損傷の存在下においてもゲノム全体レベルでの複製には必要ではないことが分かった。一つの複製フォークが停止・崩壊しても、新規にフォークが形成されて全体としての複製を補償する仕組みが存在するが、Psf2変異体は複製開始能力に異常がないため全体レベルでの複製活性に影響がなかったと考えられる。しかし、個々のレプリソームの制御に関してはリン酸化によるCdc45やMCM9との相互作用の変化を示唆する結果が得られており、今後この点について深く追求していく。具体的には次のような解析を予定している。(1)内在性Psf2リン酸化の質量分析・抗リン酸化抗体による検出。(2)DNA combingによる複製フォーク速度(CMGヘリカーゼ活性と相関)の解析およびフォーク再生と新生の識別。(3)Psf2リン酸化とICL修復因子との相互作用の解析。Psf2リン酸化変異体存在下では、ICL損傷によるMCM9のリクルートに異常が見られたが、Psf2はICL修復経路においてより上流に位置すると考えられているFA因子(FANCF)との相互作用が報告されていることから、フォーク停止時におけるFA因子のリクルートに必要ではないかと考えられる。この可能性について検証していく。また、NPEの調整法とDNA combing法について十分に習熟し、上記の項目についてプラスミドを用いた部位特異的な解析、DNAファイバーレベルでの個々のフォークの進行状況の解析に活用できるようにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
プラスチックチューブなどの実験器具、制限酵素やPCR用ポリメラーゼなどの遺伝子工学試薬、その他生化学実験に必要な試薬などの購入に使用する予定である。
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