研究課題/領域番号 |
24770170
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
橋本 吉民 東京薬科大学, 生命科学部, 助教 (50616761)
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キーワード | DNA複製フォーク / レプリソーム / アフリカツメガエル卵無細胞系 / CMGヘリカーゼ / ATM/ATR / 組換え修復 / 複製ストレス / ニワトリDT40細胞 |
研究概要 |
本研究課題の目的は、崩壊した複製フォークおよびレプリソームが組換え依存的に再生される仕組みを明らかにすることである。GINS複合体はレプリソームにおいてCMGヘリカーゼ複合体の一員として働く因子であるが、哺乳類ではGINSサブユニットの一つであるPsf2がDNA損傷や複製ストレスに応答してATM/ATRによるリン酸化を受けることが知られている。このリン酸化がレプリソームの制御に関与しているのではないかと考え、Psf2のリン酸化の役割についてアフリカツメガエル卵無細胞系とニワトリDT40細胞を用いて調べた。 まず始めに、卵無細胞系においてもツメガエルPsf2はDNA損傷シグナルの存在下でATM/ATRに依存してリン酸化されることを明らかにした。また、部位特異的変異体を作製することにより、リン酸化部位が哺乳類と保存されたセリン182番目であることを明らかにした。リン酸化変異型組換えGINSを用いた再構成実験では、ゲノム全体レベルでの複製進行にはこのリン酸化の影響は見られなかった。このリン酸化がどの程度ゲノムの安定性維持に重要であるのかを評価するために、ニワトリDT40細胞を用いたコロニー形成アッセイを行った。ニワトリPsf2の182番目のセリンをアスパラギン酸に置換して恒常的なリン酸化を擬態した変異体を過剰発現した場合には、野生型や非リン酸化型を過剰発現したときに比べて、UVやMMSなどの変異原に対する抵抗性が向上することが分かった。 これらの結果は、DNA損傷による複製進行の阻害が起きた場合の応答にPsf2のリン酸化が重要な役割を果たしていることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ツメガエル卵無細胞系を用いた研究については若干遅れているが、当初の計画に無かったニワトリDT40を用いた実験を導入してある程度の進展があったため、全体としてはおおむね順調であると言える。 卵無細胞系でPsf2のリン酸化を確認できた点と全体レベルでの複製進行への影響を調べた点は進展があったが、個々の複製フォークへの影響を調べるためにはDNA combing法の技術習得が必須であり、この点の進展が少し遅れている。また、ツメガエル卵無細胞系の改良型である核質抽出液(NPE)を用いたプラスミドの複製系、さらにこれを応用した部位特異的な複製フォークの崩壊を誘導する系の開発も遅れている。 一方、リン酸化の重要性が卵無細胞系では明らかにできない可能性があるため、培養細胞(ニワトリDT40)で生存率への影響を調べたが、これは計画にはなかった進展である。
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今後の研究の推進方策 |
ニワトリDT40細胞でPsf2のリン酸化変異により生存率に影響があることが分かったので、DT40細胞とツメガエル卵無細胞系を併用してこのリン酸化の意義を明らかにしていく予定である。特に以下の項目について解析を進め、最終年度には論文としてまとめたい。 (1)DNA combing法を用いて、Psf2リン酸化変異による個々のフォークの進行速度への影響、停止したフォークからの再開への影響などを調べる。 (2)Psf2リン酸化による他の修復因子との相互作用の変化、あるいはCMG複合体の安定性への影響について免疫沈降、質量分析などにより明らかにする。 (3)リン酸化特異的抗体を作製し、フォークの停止・崩壊・再生のどの過程でリン酸化が起きていて、どのように必要となるのか、特に組換え経路との関係に注意して明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
主な理由は旅費として使用しなかったことである。 H25年度予算の当初の計画では、国内(日本分子生物学会12月)および海外(コールドスプリングハーバーシンポジウム9月)での学会発表を予定しており、30万円分の旅費を見込んでいたが、研究の進展がやや遅れていたため、海外での発表を取りやめた。また、国内での発表については、H25年度より新たに採択された新学術領域研究の予算を使用したため、この分についても余りが生じた。 次年度使用額については、前年度後半から導入したニワトリDT40細胞を用いた研究をさらに継続していくための費用としたい。当初の計画では、培養細胞を用いた研究は最終年度に簡単な確認実験を行うという程度であったが、DT40細胞で導入したPsf2変異が生存率に影響があることから、DT40細胞を用いて詳細な機能解析を行うことは妥当である考えられる。具体的には、培養細胞用の培地や血清、プラスチックシャーレなどの購入に使用する予定である。 また、翌年度分として請求した助成金については、計画通りツメガエル卵無細胞系を用いた研究での分子生物学・生化学系の実験試薬類、実験動物(アフリカツメガエル)、抗体作製、学会参加費(日本分子生物学会11月)などに使用する予定である。
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