研究課題/領域番号 |
24770171
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
佐藤 浩 久留米大学, 分子生命科学研究所, 助教 (00421313)
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キーワード | セントロメア / 動原体 / ダイセントリック染色体 / 分裂酵母 |
研究概要 |
本申請研究はモデル生物である分裂酵母を用いて実験を計画し、研究目的の「セントロメア不活性化の抑制機構の解明」に焦点を絞って解析を行っている。方法としてダイセントリック染色体が形成された際にセントロメアの不活性化が促進される変異体をスクリーニングし、その変異した原因遺伝子を同定することで、セントロメア不活性化抑制機構に関わる因子が同定可能であると考えた。本研究ではセントロメア不活性化の調節制御機構に関わる因子の解明を試みる目的で、主に遺伝子を破壊しても細胞が生存可能な非必須遺伝子を中心に解析を計画した。 この実験計画を遂行するため、平成24年度は申請者開発のダイセントリック誘導株を改変することで、本研究のスクリーニングに使用可能な分裂酵母株を作製した。そこで、平成25年度は、より効率的に研究を遂行するために、Bioneer社の分裂酵母非必須遺伝子破壊ライブラリー株を使って遺伝子スクリーニングを行った。このスクリーニングのために、遺伝子破壊ライブラリー株とダイセントリック染色体誘導株を掛け合わせ、遺伝子破壊を持つダイセントリック染色体誘導株を作製した。そして、これらの株において、組換え酵素の発現によって2本の染色体の末端融合を起こさせ、ダイセントリック染色体を誘導した。染色体融合の起こった株はマーカー遺伝子を発現するので、このダイセントリック染色体を形成した細胞のみが生育可能な寒天プレート上で、その生存割合を調べた。このスクリーニングによって、8株のダイセントリック細胞の生存率が上昇する株と、9株の生存率が減少する株が得られた。これらの株において破壊されている遺伝子は、それぞれセントロメアを活性化と不活性化へ調節している可能性がある。平成26年度に予定している、これら遺伝子機能の解析により、不明な部分の多いセントロメアの調節機構の遺伝学的な解明が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は、分裂酵母において申請者が確立していた染色体融合のためのシステムを、本申請研究に適するよう大幅に改良したため、その作成や条件検討に申請書の計画以上に時間を要した。しかしながら、出来上がった株は、遺伝子発現制御のためのプロモーターや部位特異的組換え酵素、選択マーカー遺伝子の改変により、元の株と比べダイセントリック染色体の形成のための組み換えの制御がより正確で容易に行える、利用価値および汎用性の高い株となった。 またさらに、申請書に示していた遺伝子挿入によるランダム変異を用いた変異株ライブラリーの作成を、Bioneer社の遺伝子破壊株ライブラリーの使用に変えることによって、遺伝子破壊および破壊された遺伝子の同定のステップが省略できより迅速な研究遂行が可能になった。加えて、クロマチン関連の変異株に重点を置いた解析を行うことで、平成25年度はダイセントリック染色体の生存に影響する遺伝子破壊株のスクリーニングを行う事が出来た。 故に、研究計画に予定していた平成25年度の目標は達成でき、平成24年度の遅れは取り戻せた。これにより、平成26年度は今回スクリーニングされたセントロメア活性の調節制御機構に関わると考えられる候補遺伝子についての解析が可能となり、本研究目的が達成できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、上記のように平成25年度までに選別できたダイセントリック染色体が形成された際に生存率が上昇する変異株、およびその変異遺伝子の詳細な解析を進める。まず初めに、これらのダイセントリック染色体生存株において、染色体の切断やセントロメアDNAの欠損ではなく、セントロメアの不活性化が起こることにより生存できる細胞が増加していることを、パルスフィールドゲル電気泳動を用いた染色体DNAの状態の解析により調べる。そしてさらに、クロマチン免疫沈降法を用いてセントロメア特異的タンパク質(CENP-Aなど)やヒストンの特異的な修飾(ヘテロクロマチン化など)の解析を行う。この結果、破壊によって、セントロメア不活性化が起こりやすくなる事が示された遺伝子について、すでに一方のセントロメアが不活性化する事で安定化しているダイセントリック染色体株で、遺伝子の高発現株や遺伝子破壊株を作製する。そして、その際不活性化していたセントロメアにおけるセントロメア機能やそのクロマチン状態の変化を、免疫沈降法や蛍光顕微鏡によるセントロメアの挙動やタンパク質の局在の観察により解析する。これらの解析により、セントロメア不活性化抑制へのこれら遺伝子の役割やその調節メカニズムが解明できる。 一方、これまでの選別において、ダイセントリック染色体を形成した際に生存率が低下する遺伝子破壊も示されている。これらの破壊株においては、セントロメアの不活性化が起こりにくくなっている事が考えられるので、この仮説が正しいかの検証を新たに予定している。 これらの実験を行う事により、最終的に染色体上のセントロメア活性やその数を調整する遺伝的な機構の解明が期待される。
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