本研究では1細胞内の温度を高い時間・空間分解能で可視化する技術を開発し、これまで不可能であった細胞内熱産生を直接可視化することを目的としている。そのために以下の3つの課題を遂行している。1)蛍光性温度センサータンパク質の改良・開発、2)細胞の熱産生の可視化、3)神経細胞の発火に伴う熱産生の定量化(ジュール熱仮説の検証) 今年度は以下の結果を得ることができた。 1)前年度までにレシオメトリックな蛍光性温度プローブを大腸菌からタンパク質を精製し、20℃から50℃に対する温度変化に対する繰り返し性を確認した。今年度は20℃以下の低温領域での蛍光のレシオ変化率を測定した。その結果、5℃から20℃でも有意な蛍光の レシオ変化を観測した。また5℃から50℃に対する温度変化に対する繰り返し性も確認した。これにより植物やメダカなどの1細胞の温度イメージングも期待できる。 2)本温度プローブを細胞のミトコンドリアに発現しミトコンドリア膜の脱共役阻害剤であるFCCPを添加することにより、ミトコンドリア内の温度が上昇することを観測した。また細胞質と核内の温度が異なる様子も本温度プローブを用いて観測できた。さらに赤外光で1細胞を温めることにより遺伝子発現をコントロールする技術を本温度プローブの観測系に新たに組み込んだ。これにより赤外光照射でどの程度細胞内の温度が上がるか観測できるようになった。 3)神経細胞の発火に伴う熱産生を可視化するために、チャネルロドプシンと蛍光性温度センサーを発現した細胞を使って実験を行ったが、有意な温度変化を観察することができなかった。活性の異なるチャネルロドプシン変異体も使用したが、有意な温度変化を観察できなかった。
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