研究課題/領域番号 |
24770177
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
高稲 正勝 筑波大学, 生命環境系, 特任助教 (20573215)
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キーワード | 細胞質分裂 / 収縮環 / アクチン細胞骨格 / 分裂酵母 / II型ミオシン / IQGAP / アクチン調節タンパク質 |
研究概要 |
細胞質分裂に必須な収縮環は、筋肉と同様にアクチン繊維とII型ミオシンから構成されるが、形成や収縮における分子機構の詳細は不明のままである。本研究ではRng2-アクチン繊維複合体とミオシンの相互作用を精細に観察することで、収縮環アクトミオシン相互作用様式の解明に迫る。平成25年度の主な研究成果: (1) Rng2アクチン結合部位(Rng2CHD)の機能解析。前年度から引き続きRng2CHDのin vitroおよび生細胞での機能解析を進め、成果をまとめて論文として投稿中である。またRng2CHDとアクチン繊維の相互作用の生物物理学的解析(一分子レベルでの観測)を共同研究として開始した。これによりRng2CHDのより詳細な活性や作用機序の解明が期待される。 (2) Rng2の収縮環維持に関する機能解析。Rng2は複数のドメインからなるため、アクチン繊維以外の収縮環因子とも相互作用していることが以前からわかっていた。さらに解析を進め、Rng2はアニリンMid1と共同して、収縮環中のアクチン繊維非依存的なII型ミオシン画分の維持に必要であることを明らかにし、論文として公表した。 (3) Rng2類似遺伝子の解析。Rng2CHDと相同な配列を持つ遺伝子を同定し機能解析を行った。この遺伝子は予想に反して、細胞質分裂ではなく、減数分裂後の胞子形成過程に関与していることが明らかになった。これらの成果をまとめた論文を国際紙に投稿し、現在改訂中である。 (4) 単量体II型ミオシンMyo3の機能解析。収縮環におけるアクトミオシン相互作用をより直接的に解析するため、モーター活性を様々に変化させた変異型Myo3発現株を作製し機能および局在解析を行った。Myo3のモーター活性はMyo3の収縮環への局在量や局在時期を制御してること、また分裂期後期の収縮環の維持と収縮に関与していることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当研究課題は分裂酵母IQGAP Rng2の機能解析を通じて、収縮環におけるアクトミオシン相互作用の分子機構を解明し、収縮環の形成や収縮といった生理機能と結びつけることを目的としている。現在までに研究代表者はRng2のアクチン結合ドメイン (Rng2CHD)がin vitroでアクトミオシン相互作用を調節する活性があることを明らかにし、より詳細な一分子レベルでの生物物理的解析も共同研究として着手している。今後は生化学的活性を変化させた、変異型Rng2株における収縮環形成や収縮をライブセルイメージングにより解析する。in vitroの実験から得られた知見を生細胞の実験にフィードバックして検証することで、Rng2の作用機序についてより包括的な理解を得ることが期待できる。 またRng2の解析とは独立してII型ミオシンMyo3のATPase活性変異株を解析し、ミオシン頭部のモーター活性は収縮環におけるミオシン量や局在の時期を調節していること、および収縮環の収縮だけでなく維持にも必要であることを明らかにした。この結果より、本研究課題の前提である「収縮環におけるアクトミオシン相互作用と収縮環の性状との連関」が、別の角度から実証されたと言える。 以上のことから、現在までに得られた研究成果は本研究課題の研究目的に則して、概ね順調な達成度であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに分裂酵母IQGAP Rng2がアクチン繊維に結合することで、アクチン-II型ミオシン相互作用を調節する生化学的活性を持つこと、および収縮環形成過程においてアクチン繊維、Rng2、II型ミオシンが緊密に相互作用していることが明らかになっている。今後は共同研究者と協力して、Rng2のアクチン結合ドメインとアクチン繊維の相互作用をより詳細に一分子レベルで解析する。平行して、生化学的特性を変化させた変異型Rng2発現株を作製し、細胞質分裂における表現型を観察することで、Rng2がいかにしてアクトミオシン相互作用を調節し、収縮環の形成や収縮を駆動しているのかを解明する。また、ATPase活性変異型ミオシン株を使用した解析からミオシンモーター活性が収縮環のミオシン量や収縮環維持に関与していることが明らかになったため、それらの株でさらに収縮環構成因子のターンオーバー速度や脱会合速度を測定し、モーター活性がどのように収縮環の安定性や恒常性に寄与しているかを明らかにする。 生化学的解析においてはRng2やミオシンの全長タンパク質を使用することが望ましいが、これまでに分裂酵母からの精製が非常に困難であることがわかっている。今後は共同研究者の指導のもと、細胞性粘菌によるタンパク質発現系を導入し、Rng2やミオシンの全長タンパク質の精製系の確立を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
精密な画像解析を可能にするデコンボリューション解析用ソフトウェア(SVI社製)を導入したが、いくつかのオプション機能については、その有用性の検証が不十分であったため、購入を控え、その分の研究費を次年度に繰り越した。 今後は研究の進捗状況を鑑みてデコンボリューション用ソフトウェアのオプション機能が必要と判断されれば、逐次購入する。また実験の結果から得られた仮説を、計算機上でモデリングして詳細に検証するためのシミュレーション用ソフトウェアを購入する予定である。
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