研究課題/領域番号 |
24770183
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
成田 啓之 山梨大学, 医学工学総合研究部, 講師 (50452131)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 繊毛 / 多様性 / シグナル伝達 |
研究概要 |
研究代表者は本研究課題に関して、平成24年度に以下の研究成果を得た。 1.ブタ脈絡叢上皮細胞(CPECs)から単離した一次繊毛のプロテオミクス解析と、マウスCPECsのライブセルイメージングおよび電子顕微鏡解析などにより、この細胞の繊毛形成が胎児期のE12~E13頃に始まり、その後出生日をピークとして一過性に(E15~P6)運動機能を獲得することを見出した。しかしながらこの繊毛は他の一般的な運動繊毛と運動様式が異なっており、細胞外液の流れを生み出す能力は無いようであった。この一過性の繊毛運動は、モーター分子であるDnahc11の発現レベルの変動と相関していた。以上の知見により新規の繊毛成熟機構を明らかにできた。 2.幾つかの細胞で繊毛に局在し、その繊毛の感覚機能を担っていることで知られるTRPV4が、CPECsおよびIMCD3では繊毛に局在しないことを免疫染色により明らかにした。これは繊毛への物質輸送機構に多様性があることを示している。しかしその一方で、これらの細胞の繊毛形成を阻害すると、TRPV4の発現レベルおよびイオンチャネル機能が低下することをカルシウムイメージングなどにより明らかにした。これは予想外の結果であり、繊毛の機能不全が原因で生じるciliopathyの病態解明に寄与する知見である。 3.プロテオミクスおよびトランスクリプトーム解析によって繊毛に関連があると予想された新規分子を同定し、レンチウイルスを用いたノックダウン実験をおこなった。その結果、繊毛数の調節に影響する分子、繊毛形成に関与する分子、CPECs繊毛の感覚機能に関与する分子などを幾つか絞り込むことが出来た。この研究成果により、今後研究を発展させていく上で必要な基盤を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題に関する研究成果を一報、査読付き学術誌に掲載することができた。更に現在もう1報を投稿中で、別の1報を投稿準備中である。 繊毛数の調節に関連する分子に関しては目標の達成に必要な初代培養系およびレンチウイルスを用いた遺伝子強制発現系・ノックダウン系、細胞周期検出系を確立し、新たな知見を幾つか得ることが出来た。 脳室系上皮細胞における嗅覚受容体の機能解析に関しては遺伝子のクローニングが完了し、またアゴニストを加えたときの受容体活性化をモニターする系も作成できた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に得た結果を更に発展させるために、以下の解析を行う。 1.繊毛数調節分子の機能解析:まずEGFP発現系や免疫染色などによる注目分子の繊毛・基底小体局在性を確認する。次に繊毛の構造と機能に与える影響の解析をおこなう。特に繊毛数減少に伴い、運動繊毛が形成する細胞外液流の速度や、CPECや嗅細胞の繊毛感覚機能が低下するかどうかを検討する。ゼブラフィッシュなど多数の変異体ライブラリーを持った小動物での解析や、個体レベルでのノックアウト・ノックダウン効果を検討する。 2.脳室系上皮細胞における嗅覚受容体の受容刺激の検索:生理的条件下で脳室上皮の嗅覚受容体を刺激するリガンドを検索する。具体的には脳脊髄液や血液に含まれるホルモン、神経伝達物質、生理活性物質などを候補とし、各種クロマトグラフィーを用いて得られた分画を解析してリガンドの同定を目指す。 3.繊毛数と繊毛感覚機能の関連解析:上記2つの解析結果の関連性を検討する。脳室系上皮細胞において繊毛数を減少させたときに嗅覚受容体の機能にどのような影響が見られるかを解析する。またモデル動物において嗅細胞の感覚繊毛数を減少させることができた場合、におい物質に対する感度の変化などを解析する。またゼブラフィッシュは行動解析の基盤が整った動物であるので、繊毛数の変化がどのように個体レベルの変化をもたらすかを検討する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度から繰り越した研究費は本研究課題の達成に必要なウイルスベクターの作成および購入、また抗体や制限酵素などの各種消耗品の購入に使用する計画である。
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