研究課題
ショウジョウバエ培養細胞(S2-DRSC)において、mRNA小胞体標的化を解析する際に基盤となるRNAイメージングシステムを構築した。RNA可視化のために2種のコンストラクトを作製した。一つは結合配列既知のRNA結合タンパク質(RBP)とGFPの融合タンパク質、もう一つはRBPの結合配列(BE)と解析対象RNAの連結RNAである。RBP/BEの組み合わせは、既に報告のあるMCPとms2、λNとboxBだけでなく、より結合の強いL7AeとboxC/Dを作製し比較検討を行った。その結果、MCP/ms2、λN/boxBでRNAを可視化することに成功した。これはショウジョウバエの培養細胞でRNAをライブイメージング出来た初めての例で、RNAi法等と組み合わせることにより、標的化関連因子の同定に繋がる強力な解析系になることが期待される。また、S2-DRSC細胞抽出液からショ糖密度遠心勾配法により粗面小胞体画分(rER)を分画し、更に同画分を高塩濃度、ピューロマイシン等で処理し遠心によりリボソームを除去した膜画分(ER)及び剥がれたリボソームを含む上清(ribo)を得た。このER、ribo、rER及び細胞質画分(S)に分画されるmRNAを次世代シークエンサーにより同定した。rERとSに分画後rERに分画される割合(rER/rER+S)、同様にER/ER+riboを算出し、それぞれ上位100個に関してシグナル配列の有無を調べたところ、それぞれ48個、5個となった。ER/ER+riboの値はS/S+rERの6個と同程度になることからリボソームを介して結合したmRNAが効率よく除去されているが、この状況下でもシグナル配列を持たない多くのmRNAがERに分画された。その中には発ガンと関係のあるyorkieやCDC27、糖尿病の進行に関与するIP3Kなども含まれ非常に興味深い。
1: 当初の計画以上に進展している
平成24年度に計画していた『ショウジョウバエ培養細胞におけるRNAイメージングシステムの構築』は完了し、平成25年度に計画していた『既知の機構であるシグナル認識粒子依存的な小胞体標的化機構以外の機構で小胞体へ標的化されるmRNAの網羅的な同定』も完了した。更に、同定したmRNAを構築したRNAイメージングシステムを用いて可視化することにも成功し、現在小胞体標的化に必要なmRNA配列の同定を進めている。
構築したRNAイメージングシステムを用いて、crumbs、short gastrulation、Ptc-related、XBP1の可視化を行ない小胞体標的化が確認されれば、標的化に必要十分なRNA配列(localization element: LE)の同定を行なう。それと平行して、平成24年度に同定した未知の機構で小胞体へ標的化すると思われるyorkieやIP3K、CDC27などのLEの同定も行う。またLEが同定され次第、一次配列の比較、mfoldを用いた二次構造予測を行い、他のmRNAから得られた結果と比較し共通性を検討する。共通性の検討と平行して、LEに結合するトランス因子の生化学的な同定を試みる。これまでmRNAの細胞内局在化に関わるLEの結合因子を同定する試みは、RNAとタンパク質の非特異的結合により非常に困難であった。そこで、今回は同じ領域へ局在化するが配列の異なる複数のLEを用いトランス因子を精製し、その共通因子を見出す。またLE内部に塩基置換を導入し小胞体局在が見られなくなる変異型LEをネガティブコントロールとしてもちいることにより絞り込みを行う。
培養細胞におけるRNAイメージングシステムを用いて、小胞体標的化に必要十分なRNA配列を同定する為に、細胞培養関連試薬(培地、血清、トランスフェクション試薬、抗生物質等)、プラスチック器具等の消耗品に80万円、サブクローニング等の遺伝子工学関連試薬、プラスチック消耗品、100万円、トランス因子同定のために生化学実験関連試薬、プラスチック消耗品に75万円、学会参加費及び旅費に5万円、論文投稿などに10万円を使用する予定である。
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