偶然生じる細胞の形と、将来の運命決定の関係を明らかにすることは、細胞システムを理解するうえで重要な問題である。そこで本研究では、確率論的な非対称分裂を行うゼブラフィッシュ胚のV2介在神経前駆細胞(V2細胞)に注目して細胞の形と運命選択(V2aとV2b)の関係を明らかにしてきた。平成24年度までに、V2細胞の一端が尖っているとそちら側の娘細胞がV2aの運命を選択する可能性が高いことを示した。そして、cellular Pottsモデルを用いたコンピュータシミュレーションにより、シグナル分子の尖がりへ偏りと分裂期の拡散とでこの確率的な非対称分裂が再現可能であることを明らかにした。そこで平成25年度では、コンピュータシミュレーションの結果から予想されるV2細胞、及びシグナル分子の振る舞いを検証した。具体的には、1) 娘細胞間の運命選択を担うシグナル分子のDeltaCタンパク質に対する抗体を用いて、V2細胞の尖がりにDeltaCが多く存在する傾向を明らかにした。2) DeltaCと蛍光タンパク質mCherryの融合タンパク質をゼブラフィッシュ胚に導入し、尖った側に局在していたDeltaCは、分裂期に入ると細胞全体へ広がっていくことを確認した。3) deltaCに対するノックダウン実験や強制発現実験により、DeltaCが減少すると、娘細胞間の運命選択はランダムになり、反対にDeltaCが増えると、尖った側の娘細胞がV2aの運命を選択する傾向がより顕著になった。そして、4)環境温度を上げると(拡散速度大)、娘細胞間の運命選択はランダムに、反対に下げると(拡散速度小)、運命選択の偏りはより大きくなった。これらの結果より、尖った側の娘細胞へV2aの運命が偏るという確率論的なV2細胞の非対称分裂は、DeltaCの偏った分布と分裂期での拡散によりもたらされることが示された。
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