研究課題
近年、核膜は、単なるDNAの入れ物ではなく、核と細胞質間の輸送や、遺伝子発現などに積極的に関わるなど、細胞の増殖に必須な器官として再定義されてきている。本研究では、核膜の分裂機構について新しい知見を得る目的で、分裂時に核膜が部分的に崩壊するジャポニカス分裂酵母を材料に実験を進めている。我々は、既に分裂期に異常のある変異株(3株)を、温度感受性変異株ライブラリーから取得していた。24年度においては、まず、これらの変異株の核膜をマーカータンパク質によって可視化し、核膜の挙動を経時的に観察した。その結果、野生株で見られる核膜の崩壊は、変異株では見られないことが分かった。原因遺伝子を特定したところ、E3ユビキチンリガーゼであるAPC/サイクロソームの構成因子の変異株である事が分かった。APC/サイクロソームは、分裂期に起こる選択的なタンパク質分解において、中心的な役割を果たすタンパク質複合体で、分裂期の重要因子の一つである。APC/サイクロソームの変異株において、野生株で見られるような核膜の崩壊が起こらないという事は、核膜の崩壊が、APC/サイクロソーム経路の下流に位置し、今までに明らかになっていない未知のタンパク質の分解を伴って起こる事を示唆していた。この仮説を検証する目的で、APC/サイクロソーム変異株のサプレッサー変異を探索したところ、APC/サイクロソームによる認識配列を持つOar2タンパク質が同定された。Oar2のタンパク質量はAPC/サイクロソーム変異株において増加したので、Oar2はAPC/サイクロソーム依存的に分解される事が示された。ヒトなどの高等真核細胞においても、APC/サイクロソームとOar2タンパク質は保存されているので、本研究の成果は、ヒト細胞で起こる核膜崩壊の作用機序の理解にも役立つと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
ジャポニカス分裂酵母の核膜崩壊が減退する変異株の単離、またそのサプレッサーの同定と、当初の計画通りに実験を進めることができたから。また、一番懸念していた、変異部位の同定作業についても、東農大の吉川研究室の協力もあり、スムーズに進んだから。
24年度の研究により、APC/サイクロソーム変異株の制限温度下での表現型は、核膜の崩壊が減退することと、分裂期後期の染色体が凝縮することであった。25年度は、これらの表現型を指標にして、APC/サイクロソームと協同して、核膜崩壊に働く因子を温度感受性変異株ライブラリーから単離する事を考えている。ジャポニカス分裂酵母の全遺伝子約4800個に対し、変異株ライブラリーには1056個の変異株があるので、核膜崩壊に関わる因子が複数あれば、いくつかの関連因子の変異株はライブラリー内にあると期待できる。また、核膜崩壊に関わる因子の探索として、質量分析装置の使用も考えている。APC/サイクロソーム因子や、Oar2タンパク質などにエピトープタグを付加して、免疫沈降をし、結合してくるタンパク質を網羅的に解析する。さらに、コンピュータ解析を用いたホモログの探索も考えている。核膜は、真核細胞では普遍的に存在する器官なので、Oar2タンパク質の種間の保存性から、機能を類推する事は重要であると思われる。また、他生物種とのOntology解析により見つかった因子の細胞内局在や動態を観察する。
該当なし。
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Genome Biology
巻: 13 ページ: R27
10.1186/gb-2012-13-4-r27
Yeast
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