研究概要 |
染色体を包む核膜の分裂期動態には、崩壊と再形成を繰り返す開放型(Open)と、崩壊せずに伸縮する閉鎖型(Closed)が存在するが、それらの生理的意義もしくは機構は解明されていなかった。分裂酵母の一種であるSz. japonicusの核膜は、分裂期に部分的に崩壊するため(Semi-open)、核膜動態の研究にとって非常に有用な研究対象である。申請者らは、Sz. japonicusをモデルとして、ヒト細胞などで起こる核膜崩壊の意義もしくは機構を理解することを目的とした。 Sz. japonicusの温度感受性変異株を作製し、核膜崩壊の起こる分裂期が遅延する変異株を集めたところ、E3ユビキチンリガーゼであるAPC/Cyclosome(APC/C)の変異株を同定した。APC/C変異株において核膜の動きを詳細に観察すると、核膜崩壊が起こり難くなっており、閉鎖型に似た核分裂が観察された。この表現型を解析するためにAPC/C変異株のサプレッサーを単離したところ、脂肪酸合成酵素活性を持つOar2の変異を同定した。Oar2は、APC/Cによって認識されるDestruction boxモチーフを持っていた。Oar2のタンパク質量はAPC/C変異株内で観察した場合と、Oar2が持つDestruction box配列に変異を加えた場合に増量した。さらに、oar2変異は、APC/C変異株で観察される分裂期中期と後期の遅延のうち、分裂期後期の遅延を選択的に相補し、半開放型の核分裂を回復させた。これらの結果から、分裂期後期に起こる核膜の部分的な崩壊には、核膜量が時期特異的に制限される必要があるというモデルを提案した(Aoki et al., 2013)。本成果は、核膜崩壊機構の理解の一助になると考えられた。 また、核膜崩壊が起こり難くなる際には染色体の縮退が観察された。そこで、変異株ライブラリーから染色体が縮退する変異株を単離した。原因遺伝子はRanGEFと脂肪酸合成酵素のサブユニットだった。Ran活性と脂肪酸量の動態もしくは変化が染色体構造維持に関わる事が示唆された。
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