動物細胞の細胞質分裂の遂行においては、モータータンパク質である非筋肉性ミオシンIIが必須の役割を果たすと信じられてきた。しかし、近年、ミオシンIIに依存しない細胞質分裂システムの存在が提示され、細胞質分裂には多様な力学的機構があることが指摘されている。しかしながら、多細胞生物における細胞質分裂の力学的機構の多様性についての理解は十分ではない。本研究では、細胞質分裂のミオシンIIへの依存性を指標とすることで、多細胞生物に特異的な細胞質分裂システムの理解を目指した。 多細胞生物のモデル系として、細胞集団が様々な3次元的な形状を示すマウスの初期胚発生期を用いた。まず、ミオシンIIに依存しない細胞質分裂の有無を検証するために、ミオシンIIの特異的阻害剤の存在下における細胞質分裂の観察を行った。その結果、発生のある時期において、阻害剤の存在下でもある頻度で細胞質分裂を遂行できる細胞があることが分かった。また、阻害剤存在下での細胞質分裂の成功率を推定するために、細胞数の変化を計測する画像処理・解析系を構築した。この系は、細胞数が膨大となる発生のより後期における解析に有用だと考えられる。 次に、ミオシンIIの時空間的な挙動が、一般的な細胞質分裂の際とは異なる様相を示す細胞が存在するかを検証することを計画した。そこで、ミオシンIIを蛍光ラベルした遺伝子改変マウスを、理化学研究所 発生・再生科学総合研究センターの協力で作出した。ミオシンIIの動態を解析するための画像処理・解析法を、木森義隆博士(自然科学研究機構)の協力で作成した。最終年度では、この遺伝子改変マウスを用いたタイムラプス観察を行い、ミオシンIIの動態を解析した。その結果、いくつかの特徴的な動態が観察された。ミオシンIIの時空間的パターンの解析と、阻害剤を用いた結果から、細胞質分裂の多様性についての理解が促進されると考えている。
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