研究課題/領域番号 |
24770197
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
大谷 哲久 独立行政法人理化学研究所, 発生・再生科学総合研究センター, 研究員 (50415105)
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キーワード | 細胞伸長 / 細胞極性 / 細胞内輸送 / 細胞質ダイニン / IKKε / Spindle-F / 微小管 / ショウジョウバエ |
研究概要 |
今年度は、Spn-Fの抗体を作成し、内在性Spn-FがIKKε非依存的に微小管マイナス端に局在する事、また内在性のSpn-FがIKKεおよび細胞質ダイニンと複合体を形成する事を明らかにした。また、IKKεの局在についてタグ付き分子を用いて検討した結果、IKKεタンパクそのものが微小管マイナス端にSpn-F依存的に集積する事が明らかとなった。さらに、Spn-Fの構造機能解析を前年度に継続して行った結果、Spn-Fの生理機能にはIKKεとの結合が必須である一方で、細胞質ダイニンとの結合は特に細胞伸長過程における細胞極性の維持に必要であることを明らかにした。また、IKKεの微小管マイナス端への局在がその機能に十分であるかどうかを検討するために、IKKεとSpn-Fの細胞質ダイニン結合領域を融合したような分子を作成し、その機能を解析した。その結果、IKKεが微小管マイナス端に局在する事はその機能に必要であるが十分ではない事、IKKεの生理機能にはSpn-Fとの結合そのものが重要であることが明らかとなった。また、IKKεの微小管マイナス端への局在は細胞伸長過程における細胞極性の維持には必須であるが、アクチン骨格の制御には必要ではない事も明らかとなった。したがって、Spn-FにはIKKεの局在を制御する機能と共に、その活性を制御する役割もある可能性が示唆された。これらの結果から、Spn-FはIKKεの補助的サブユニットとして機能し、その局在と活性を制御していると考えられた。 さらに、Spn-Fと細胞質ダイニンとの結合を仲介する候補となる分子に注目してその機能解析を行った結果、この分子が微小管ネットワーク上に局在し、その上をダイナミックに動き回る事、またこの分子がIKKεおよびSpn-Fの微小管マイナス端への局在を維持するのに重要であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、前年度までの結果をさらに進展させ、IKKεが微小管マイナス端に集積する仕組みとその生理的意義をおおむね解明する事が出来た。その結果、Spn-FがIKKεの局在だけでなく活性をも制御する事、またIKKεの微小管マイナス端への集積は特に細胞伸長過程における細胞極性の維持に重要であることが明らかとなった。これらの結果は現在論文としてまとめている段階である。また、Spn-Fと細胞質ダイニンの結合を仲介する候補となる分子の解析にも着手し、微小管モーターとの関係性、またIKKεとSpn-Fの局在制御に関与する可能性を示唆する予備的結果を得ることが出来た。この候補分子については研究開始当初には想定していなかったものであり、当初想定していた以上の進展であると考えている。一方で、IKKεが他の細胞質ダイニンの積荷分子にどのように作用するのかについては解析が遅れている。これは、IKKεの微小管マイナス端への集積機構の解明に注力したが主要な理由である。細胞質ダイニンの積荷分子としては、特にエンドソームに局在するHookが最近になって真菌においてエンドソームと細胞質ダイニンおよびキネシンの結合を仲介する事が報告された。これまでに、IKKεがHookと拮抗的に作用する事を示す遺伝学的結果を得ているので、今後IKKεがHookに作用する分子機構の解析を進めたいと考えている。総合するならば、現在までに微小管マイナス端へのIKKεの集積機構については想定以上の進展が得られているが、一方で細胞質ダイニンの積荷分子の解析はやや遅れている事から、全体としては現在までに研究目的をおおむね順調に達成していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、IKKεの微小管マイナス端への集積機構については、得られた研究成果を学術論文としてまとめ、公表する事を行う。また、Spn-Fと細胞質ダイニンの結合を仲介する候補となる分子について解析を進め、遺伝学的手法やイメージングを用いてSpn-FとIKKεの局在・動態に与える影響を検討する。また、分子細胞生物学的手法を用いてその構造機能解析を行うと共に、生化学的手法を用いてこの分子の結合分子を同定する事を試み、この分子の生理機能を明らかにすることを目指す。また、剛毛においてIKKεがどのように細胞質ダイニンの積荷分子に作用するかを解析するために、特にエンドソームと細胞質ダイニンの結合を仲介する事が明らかとなったHookに注目し、解析をさらに進める。特に、Hookと細胞質ダイニンの結合様式について明らかにすると共に、両者の結合にIKKεが与える影響について分子細胞生物学的手法および生化学的手法を用いて明らかにする。また、Hook-GFPを発現するようなトランスジェニック・ショウジョウバエを樹立し、Hookの剛毛細胞における動態、およびその動態にIKKεが与える影響について検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は、IKKεの微小管マイナス端への集積機構を主に解析した。解析のために予定していた購入物品の内、既に研究室に存在するもので代替する事が可能となった物が生じたため、未使用額が生じている。 次年度は、IKKεのマイナス端への集積機構および細胞質ダイニンと積荷分子の結合の制御機構を解析するために、分子細胞生物学的実験・生化学実験・およびショウジョウバエを用いた実験に必要な消耗品・試薬および実験機器や必要な書籍の購入を予定している。また、研究成果を公表するためおよび最新の情報収集のために学会参加を予定しており、旅費を計上している。さらに、研究成果を学術論文として公表するための費用も予算として計上している。
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