グルコース1分子とセラミドから構成される糖脂質グルコシルセラミド(GlcCer)の過剰蓄積はゴーシェ病、パーキンソン病、インスリン抵抗性など様々な病態を引き起こす。一方でGlcCer合成酵素欠損マウスは胎生致死であり、生命には必要不可欠な分子である。過度な量的変動が及ぼす影響を考慮すると、細胞内にはGlcCer量を適切に制御する機構があると考えられるが、その詳細は不明である。AMP-activated protein kinase (AMPK)は細胞内のエネルギーセンサーとして、ATP量を保つために糖および脂質代謝を制御しているセリンスレオニンキナーゼである。前年度までに、AMPK活性化によりGlcCer合成酵素活性およびGlcCer量が減少すること、その原因が前駆物質であるUDP-グルコース量の減少によること、そしてNudt14というUDP-グルコース分解酵素がAMPKによりリン酸化・活性化されることを報告した。本年度はNudt14によるUDP-グルコース量の制御機構の詳細を解明することを目的とした研究を行った。予想に反し、AMPK活性化時におけるUDP-グルコースおよびGlcCer合成酵素活性の低下は、Nudt14のノックダウンによる影響を受けなかった。また、Nudt14の発現量が低下しているにも関わらず、UDP-グルコース分解活性は低下しなかった。この結果より、哺乳類の細胞内にはNudt14を含めて2つ以上のUDP-グルコース分解酵素が存在することが強く示唆された。また、本課題を実施する中で、新たなGlcCer合成酵素阻害剤や、ユビキチン化やホスホイノシタイドを介したGlcCer合成酵素活性制御機構を見出すことが出来た。今後は、未知のUDP-グルコース分解酵素遺伝子の同定と、新たに発見されたGlcCer合成量制御機構の意義の解明を目指す予定である。
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