研究課題
若手研究(B)
本年度は電子線トモグラフィーによるマウス胚ノード繊毛の3次元構造解析を行い予備データの再現性の確認を行った。繊毛回転運動が正常なコントロール胚と回転運動が不規則になるタキソール処理胚におけるノード繊毛の微小管の配置の比較を行った。コントロール胚においてノード繊毛は9本の微小管が円周上に規則正しく等間隔で配置される9+0構造を持つのに対し、タキソール処理胚におけるノード繊毛では周辺の微小管が中央へ位置を変え配置が不規則になるトランスポジションとよばれる現象が起きていることを確認した。また、先行研究で繊毛回転運動が不規則になると報告されているinv変異体についても同様に3次元構造解析を行った。結果、inv変異胚におけるノード繊毛では10-20%程度の繊毛は微小管の配置が不規則となっていることが分かった。この割合はノード繊毛全体で不規則な運動を示す繊毛の割合と一致する。繊毛運動の駆動力は微小管を足場として働くダイニンが発生させる。よって申請者は今回観察された微小管の配置異常が不規則な運動の直接の原因になっていると考えている。この仮説を検証するため現在、ノード繊毛運動の構造シミュレーションを共同研究者の協力のもと行っている。電子線トモグラフィーから得られた実験データを元に繊毛内部の微小管・膜をメッシュの集合体として再構成する。そこへダイニンの構造変化による力を加え運動のパターンを計算する。コントロール胚の繊毛運動シミュレーションについては既に計算が始まっている。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、初年度にタキソール処理胚のノード繊毛における微小管の配置異常の再現性を確認するに至った。またinv変異胚の繊毛構造解析を達成することができたのも研究計画通りである。電子線トモグラフィーによる3次元構造解析に加え、従来の薄切試料(80 nm)による通常の電子線顕微鏡観察も行ってきた。繊毛断面の像を観察することで9本の微小管配置が正常なのか異常なのかを判別し、電子線トモグラフィーのデータから得た結論をより強めることが目的である。マウス8日胚のノード細胞を切片上で判別するためには繊毛に対して長軸方向に切片を作製する必要がある。これはこの方向から切ることでノードの窪みの形状とノード細胞の上皮様の形態が明確に表れるからである。そのため、ノード繊毛の断面の像を得ることが極めて稀になる。繊毛運動の駆動力を生み出す微小管上にあるダイニン腕を明確に捉えるような電子線顕微鏡像を撮影するためにはかなりの時間を要すると当初予想していたが、幸い24年度に断面像の撮影に成功した。最も懸案であった断面像の撮影に成功したことによりおおむね当初の研究計画通り研究が進んでいるといえる。
[1] ノード繊毛運動のシミュレーション最終年度は、共同研究者の協力のもと電子線トモグラフィーから得られた繊毛の3次元構造の実験データをもとにした運動のシミュレーションが主な課題となる。実験データではコントロール胚では規則正しく等間隔で微小管が配置されているのに対し、タキソール処理胚、inv変異胚では微小管の配置が複雑である。微小管の形状や配置が複雑になるとシミュレーションに必要なメッシュの数を増やす必要が発生するため構築するには作業時間と実際の計算量が膨大になる恐れがある。そのため方針として、この計算時間をスケジュールに考慮し、年度の初めに複数の3次元データを取得し最終年度の多くの時間を計算時間に充てるようにする。[2]電子線トモグラフィーによるノード繊毛の3次元構造解析最終年度も引き続きノード繊毛の3次元構造データを取得する。コントロール胚(DMSO処理)、タキソール処理胚、野生型胚、inv変異胚においてそれぞれ正常な微小管配置を示す繊毛と異常な微小管配置を示す繊毛の割合を調べる。さらにこの割合と繊毛運動の観察による正常な回転運動を示す繊毛の数と不規則な運動を示す繊毛の数の割合を比較することで、運動と構造の関連性を強く示唆することができる。3次元構造解析の実験データ取得には1ケースで1週間程の時間を要するため、時間を無駄にしない工夫が必要である。そのため方針としてあらかじめ繊毛軸糸全体が残っているきれいなマウス胚サンプルを超高圧電子顕微鏡とは別の通常の電子顕微鏡で選別した後、本番の電子線トモグラフィー撮影に臨む。
[1] 繊毛運動シミュレーション用の計算機繊毛運動のシミュレーションを行うため、計算用PC(インテル® Xeon® プロセッサー 4コア、1.80GHz、10MB、6.4 GT/s)を購入する予定である。[2] 電子顕微鏡試料作製用ダイヤモンドナイフ電子顕微鏡用の試料作製のため消耗品であるダイヤモンドナイフを購入する。[3] 学会参加費・旅費・滞在費最終年度のため、研究成果を国内外の学会や研究会で発表を行う。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件)
PLoS One
巻: 8 ページ: e60406
Science
巻: 338 ページ: 226-231
DOI: 10.1126/science.1222538
Nature Communications
巻: 3 ページ: 1322
doi:10.1038/ncomms2319