研究課題/領域番号 |
24770209
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
篠原 恭介 大阪大学, 生命機能研究科, 助教 (20527387)
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キーワード | 発生・分化 / 繊毛 |
研究概要 |
本年度は電子線トモグラフィーにより得られたマウス胚ノード繊毛の3次元構造解析をもとに構造力学をベースとしたコンピューターシミュレーションを行いノード繊毛の運動の再構築を行なった。昨年度の電子線トモグラフィーの結果、コントロール胚ではノード繊毛内の微小管は9本の微小管が円周上に規則正しく等間隔で配置される9+0構造を持つ事が分かっていた。これをもとにシミュレーションを行った結果、ダイニン腕が隣り合う微小管を滑る際に発生する力が軸糸の根元から先端にかけて伝播し、軸糸全体では時計回りの回転運動を生み出すことが分かった。また、電子線トモグラフィーによる解析によりタキソール処理を行った胚とinv変異胚では周辺の微小管が中央へ位置を変え配置が不規則になるトランスポジションが起きていることが昨年度まで分かっていた。これをもとにシミュレーションを行った結果、微小管配置の異常により本来は発生しない反時計回り方向へ力が一過的に発生し、軸糸全体では時計回りと反時計回りの動きが混在する結果が得られた。この事は実験で観察されたタキソール胚・inv変異胚の繊毛運動のパターンと一致する。さらに今回のシミュレーション結果から、ノード繊毛運動の異常を再現するためにはノード繊毛のダイニン腕は最大50 nmまで微小管間を滑る事ができるという予想を得た。ノード繊毛の断面の電子顕微鏡像から外腕ダイニンの微小管結合部位からヘッドまでのサイズを計測すると51 nmとなりシミュレーションの予想とほぼ一致した。この事からのノード繊毛が安定に回転運動を維持するためには微小管が円周上に規則正しく配置されている事が必須であることが実験とシミュレーションにより明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、初年度の実験で得られた繊毛の3次元構造をもとにコンピューターシミュレーションを行い繊毛運動を再構築する事ができ当初の研究計画通り研究が進んだといえる。シミュレーションを行う上で必要な情報であるノード繊毛内の微小管と膜の位置情報の取得が全ての例(DMSO処理胚・タキソール処理胚・野生型胚・inv変異胚)において24年度までに取得できていたため、最終年度はコンピューターシミュレーションに時間を集中して割り当てることができた。実験で得られたデータをシミュレーションで用いる計算格子に変換する作業が当初時間を要すると予想していたが、実際には実験データの取得整理と計算格子の作製を代表者と共同研究者が分担することで効率的に作業を進めることができた。海外(北京理工大)で研究を行っている共同研究者とのデータのやりとりをファイル共有システムである”Drop Box”を通じて容易に行うことができた点も研究の効率的にすすめるうえで大きな要素であった。
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今後の研究の推進方策 |
研究方策としては今後、微小管の配置や機械的特性に異常を示す変異細胞において今回開発した電子顕微鏡データとコンピューターシミュレーションを組み合わせる手法を適用し、繊毛の運動と構造の関係性の理解をさらに深めていく予定である。 技術的な改善点としては、計算格子、特に微小管の機械的な剛性の適用範囲を広げるという点がある。本研究課題においては先行研究で報告されている軸糸内の微小管の機械剛性特性(ヤング率)を用いて計算を行い問題が生じることはなかった。一方で現状よりも微小管の剛性が一桁小さくすると設計した格子が変形に耐えることができずに計算が不可能になるという問題点がある。今後は計算格子の特性を工夫して大変形にも耐える設計にするよう考慮する必要がある。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の計画では構造に異常を示す繊毛の運動を再構築し研究をまとめる予定であったが、より厳密に構造と運動の関係性を明らかにするため薬剤を短時間処理した際の軽度の構造異常を示す繊毛についてのデータを追加する必要が出てきた。このためこれに該当する電子顕微鏡の実験データの取得と繊毛運動のコンピューターシミュレーションを追加で行っている。 実験系や計算系は昨年度と今年度で既に確立されており順調に進んでいる。平成26年10月には実験を終え、研究成果の取りまとめを行う。
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