研究課題/領域番号 |
24770210
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
佐藤 裕公 大阪大学, 微生物病研究所, 助教 (40545571)
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キーワード | 受精 / ライブイメージング / 遺伝子改変動物 |
研究概要 |
近年、特に諸先進国では晩婚化に伴う少子化が問題となっている。そのため不妊や受精に関する問題も多く議論されるようになってきたが、これらに解決策を見出すには、まだ受精のメカニズムに関する知識が少なく、深い理解を得るには基礎研究を充実させる必要がある。本研究は、ライブイメージング技術を用いて受精必須因子の機能を可視化することで受精の本質を明らかにするのが目的であり、中でもIZUMO1やCD9を中心とした融合過程のイメージング解析とPAWPを中心とした卵活性化における機能解析について、遺伝子組み換え動物を駆使して展開していく。 今年度の進行状況として、まずCD9-GFPマウスを用いた融合過程のライブイメージングを進展させた結果、卵と精子の融合時におけるCD9の役割を示唆する重要な結果を得ることができた。また、卵活性化のメカニズム解析については、活性化に重要と目される遺伝子のノックアウトマウスの作出が順調に進行し、それぞれの精子に含まれる因子が卵活性化においてどのような役割を持っているのか、イメージング実験を用いて詳細に明らかにしたほか、役割が示唆されてきた精子形成に関する機能も、電子顕微鏡観察のほか、in vivo, in vitro実験で検証し終えることができた(論文準備中)。また、卵活性化メカニズムの可視化に関する試みでは、新たな手法を用いたCaイメージング法を開発することで、受精直後のCa振動について定量的に分析を行うことができている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
25年度は、卵―精子融合についてはその必須因子であるCD9(卵蛋白質)とIZUMO(精子蛋白質)分子を中心に、また、卵活性化についてはPLCおよびPAWP(ともに精子蛋白質)といった分子を中心に、遺伝子改変動物の作製を行いながら、両方の研究を進展させる計画であった。それに対し、卵―精子融合については、CD9-GFP卵による融合のライブイメージング解析の発展として、融合時のCD9の挙動について詳細な情報を得ることができた。また、卵活性化については、精子中の卵活性化蛋白質の有力候補それぞれについて、従来のES細胞を用いた遺伝子ノックアウト法だけでなく、新たに申請者らが開発したCRISPR/Cas9プラスミドDNAインジェクション法による遺伝子改変動物作製法(Mashiko et al., Sci. Rep. 2013、および Mashiko et al., Dev. Growth. Differ. 2014)により、迅速に遺伝子欠損個体および点変異導入体の作製することに成功し、遺伝子欠損体は2種、そのうち一つの遺伝子についてはさらに2種の点変異体を作製した。このうち、PAWPの機能については、受精能に関連する機能解析だけでなく、24年度に構築したCa振動の観察形を用いた波形解析も終了した(論文投稿準備中)。
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今後の研究の推進方策 |
26年度は、特に上記の項目のうち、残る卵活性化因子の機能解析に焦点を置く。これには、遺伝子ノックアウト動物と点変異導入動物を駆使して、それぞれの因子全体の機能を検証するだけでなく、蛋白質分子中でCa振動を引き起こすコアとなる部分の同定を目指し、ここまでの研究で構築した観察技術を応用して分析していく。 具体的には、まずすでに作製した遺伝子欠損マウスの受精能力について解析する。しかしながら、精子内の卵活性化蛋白質は精子の形成過程においても影響を及ぼすことが知られている。そのため、活性化因子全体を遺伝子破壊によって欠損させると、成熟精子が得られない、など、必ずしも期待した目的の遺伝子欠損体の表現系とはならない可能性が高い。そこで、有力な候補因子について、それぞれを機能ドメインに分けて考え、ドメイン単位で機能を欠損するような点変異体をデザインする。また、デザインの際には、最初に卵活性化能の高さを重視するため、先に変異蛋白質をコードするmRNAを卵にインジェクションすることで検証しながら進めていく。不妊症の原因遺伝子としての視点からも、これら点変異を持つ個体を作製し、その精子形成を解析することで、精子形成と卵活性化におけるそれぞれの機能ドメインの役割をより明らかにできると考えられる。
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