生殖細胞と体細胞の違いを生み出すメカニズムの解明を目指し、本研究課題では線虫C. elegans の発生分化過程をモデルに、エピジェネティック制御機構、とりわけヒストン修飾を中心としたクロマチン修飾制御機構に着目した解析を行なった。 平成26年度は、前年度に見出した、クロモドメイン蛋白質MRG-1が仲介因子となって生み出される生殖細胞遺伝子座上の特徴的なヒストンアセチル化修飾の蓄積について、更に研究を発展させ、生理的意義の解明を目指した。具体的には、ヒストンアセチル化修飾が生殖細胞特異的な転写伸長反応の制御に寄与しているとの作業仮説のもと、転写伸長促進因子の活性調節制御に働く新規因子の同定の為のトランスジェニック線虫の作成に取り組んだ。更に、その過程においてMRG-1が始原生殖細胞の転写抑制制御に関与することを見出し、クロマチン制御による始原生殖細胞の未分化状態維持機構の一端を解明するに至った。また、MRG-1自身がどのような発現制御を受けるかについても詳細な解析を行い、母性に供給されたmrg-1遺伝子のmRNAが3’UTRを介した安定性制御によって、胚発生後期の始原生殖細胞へ限局することを突きとめた。生殖細胞の特性維持に必須な母性クロマチン修飾制御因子の多く(MES-4など)は、MRG-1と同様の発現パターンを示す為、これらの因子は共通した機構によって発現制御が行なわれている可能性が高い。生殖細胞には、特徴的なRNA顆粒(生殖顆粒)が存在するが、MRG-1やMES-4の限局メカニズムは生殖顆粒に依存しないことを突き止めた。以上の解析結果を踏まえ、始原生殖細胞には、これまで知られていた局在化機構とは異なる新規の制御メカニズムによって母性のクロマチン制御因子を局在化させる仕組みが存在し、体細胞と生殖細胞のエピジェネティックな違いを確立する為に貢献していると考えられる。
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