研究課題
若手研究(B)
発生制御遺伝子は、環境変化や遺伝的な撹乱に対して自身の発現量を安定に保つ力を備えている。これら遺伝あるいは環境要因による撹乱作用から、発生制御遺伝子の発現量を安定化させる仕組みの1つとして、遺伝子発現をオンにする入力シグナルに対して、 その遺伝子の下流の抑制因子が拮抗することで発現のバランスをとる抑制フィードバック回路が知られている。 しかしこの回路だけでは、発現量のベースレベルの低下や上昇により、フィードバックのタイミングが少しでも遅れると、 「発現し過ぎ」と「減少し過ぎ」の状態が繰り返されるようになり、発現量は一定の値に収束することなく振動し続けてしまう。したがって実際には抑制フィードバックだけではなく、何か振動を避ける仕組みが存在すると推測されるが、その分子実体はいまだに捉えられていない。申請者は近年、遺伝子発現の安定化機構には抑制フィードバックに加えてパラログ遺伝子の活性化が関与すること、そしてこの活性化がパラログ間で保存されているエンハンサーを介して起こることを発見した。本研究ではこれらエンハンサーの働きを胚内で可視、定量化し、遺伝子発現の揺らぎを安定化させる仕組みの実体を解明することを目的としている。本年度は、まず可視、定量解析のコントロールとして強いプロモーター活性をもつことが知られているElongation factor 1(EF1)のその下流にホタルルシフェラーゼ遺伝子を連結したものと、Pax2とPax5のエンハンサ-をもつレポーターを作製した。次にそれらのトランスジェニック胚を作製し、発光顕微鏡をもちいて、尾芽胚期における遺伝子発現を調べた。その結果、EF1とPax2のエンハンサーを用いた場合いすれにおいても、ルシフェラーゼの発光シグナルを捉えることができ、Pax2では予想通り、その活性は腎臓特異的にみられることがわかった。
3: やや遅れている
計画では、同一胚内で3つの遺伝子の発現を可視、定量化し、そのダイナミクスを捉えることを目標としていた。Pax2のエンハンサーと強い活性をもつEF1プロモーターの下流にホタルルシフェラーゼを連結したものでは発光シグナルを検出することができたが、ウミシイタケルシフェラーゼを用いたときは、いずれにおいてもシグナルを検出することができなかった。したがって、目標としていた同一胚内での複数の遺伝子の発現の可視、定量化については、十分に達成できたとはいえない。また本年度は、奈良先端科学技術大学院大学から山形大学への異動のため、年度後半に動物実験を停止せざるをえず、作製したPax5のレポーター トランスジェニック系統をつかった定量解析ができなかった。
尾芽胚時のツメガエルをもちいたとき、ウミシイタケルシフェラーゼでは発光シグナルを検出できなかった。そこで今年度は新たに産総研の近江谷らが開発した発光波長の異なる3種類のルシフェラーゼ遺伝子 (緑発光、赤発光、橙色発光)をもつレポーター トランスジェニック系統を作製し、いずれの組み合せであれば、ツメガエルの尾芽胚期で発光シグナルを捉えることができるのか検討する。また本年度の実験から、ホタルルシフェラーゼで発光シグナルを検出するためには、露光時間10分を要することがわかっており、これについても検出に要する時間を短くする条件ついて検討する。上記の問題を解決したのち、トランスジェニック胚で、パラログ遺伝子の発現を抑制する実験をおこない、遺伝子発現の揺らぎを安定化させる仕組みの解明を進める。
該当なし
すべて 2012
すべて 学会発表 (11件) (うち招待講演 2件)