研究課題
顎口類の中で最も古い起源をもつ軟骨魚類の一種トラザメを用いて、脊椎動物における顎の形態進化の発生学的背景を明らかにしようと試みている。すでにマウスやゼブラフィッシュで報告されている顎の骨格パターニングに関わる遺伝子について、自らが構築したトラザメEST配列データベース(http://transcriptome.cdb.riken.go.jp/vtcap/index.htm)を活用しつつ、様々な発生ステージのトラザメ胚より抽出したRNAを用いて相同遺伝子を単離した。これらの遺伝子について、トラザメ胚の咽頭胚期や頭部骨格形成ステージにおける発現プロファイルを調べた。様々なステージの胚全体や組織切片について、in situ hybridization法により時間空間的発現パターンを検討した。顎形成に重要な役割を果たす複数の遺伝子ついてトラザメ胚で解析したところ、咽頭胚中期~後期や顎形成期において咽頭弓の間葉に発現していた。これらの結果は哺乳類などの羊膜類で見られる発現パターンと同様であり、平成24年度に本研究によって得られた結果と併せて、顎の骨格パターニングが顎口類全体で保存されていることを示唆する結果となった。また、顎の骨格パターニングに関わるとされるシグナリングカスケードを軟骨魚類胚において阻害する実験を試みた。複数の阻害剤について、発生中のトラザメ胚に投与を試みようとしたが、技術的に困難であることが判明した。一方で、羊膜類における顎の骨格パターニング機構の保存性を調べるため、ニワトリ胚において同様の阻害実験を行っている。これについては予想通りの結果を得られつつあるため、詳細な解析を現在実行中である。
3: やや遅れている
本研究の研究計画のうち、顎のパターニングに関わる遺伝子群をトラザメ胚で単離し、顎形成期の胚で時間空間的な発現パターンを羊膜類の相同遺伝子の発現プロファイルと比較する解析については当該年度までにほぼ達成された。しかし顎の骨格パターニングに関わるシグナリングカスケードの阻害実験を軟骨魚類胚を用いて行うことは技術的に困難な状況にある。また平成25年度内に所属異動があり、その前後で研究活動を一時的に停止せざるを得ない時期があったため、当該年度中に予定していた解析の一部を実行することができなかった。そのため平成26年度も引き続き本研究を継続する。
平成26年度はトラザメ胚を用いた遺伝子機能阻害実験を引き続き試みる。さらに軟骨魚類だけでなく、羊膜類胚(マウス胚やニワトリ胚)を用いて顎口類における顎パターニング機構の分子メカニズムの保存性についてより詳細に解析する予定である。
当該年度内に所属異動があり、その前後で研究活動を一時的に停止せざるを得ない時期があったため、当該年度中に予定していた解析の一部を実行することができなかった。そのため次年度も引き続き本研究を継続する。サメ用のプラスチック水槽や研究用試薬(分子生物学実験用の各種酵素・培地等, シグナル阻害剤, in situ用試薬, 免疫組織化学染色用抗体等)、研究用消耗品(手術用ピンセット, ビーズ, タングステン針, 参考書等)に使用予定である。