研究課題
脊椎動物における顎の形態進化について発生学的考察を行うため、顎口類の中で最も古い起源をもつ軟骨魚類の一種であるトラザメを用いて、顎の発生に関わる遺伝子について発現プロファイルを解析しようと考えた。自ら構築したトラザメ胚のESTデータベース(Vertebrate TimeCapsule)を用いることにより、マウスやゼブラフィッシュで明らかにされている顎の発生に関わる複数の遺伝子について、トラザメにおける相同遺伝子を迅速に単離することができた。これらの遺伝子のうち、羊膜類や真骨魚類において本来の顎関節(一次顎関節)の形成時に発現するBapx1のトラザメ胚での発現パターンを詳細に検討した。ホールマウント胚や組織切片を作製してin situ hybridizaition法により発現パターンを解析したところ、トラザメ胚においてもこの遺伝子が咽頭内胚葉や一次顎関節の形成部位の間葉に発現していることを明らかにした。このことから、一次顎関節の形成部位にBapx1が発現するのは顎口類に共通であることが示唆された。次に、哺乳類中耳の形態進化の背景にある発生イベントを検討するため、トラザメ、ニワトリ、マウスの胚発生におけるBapx1の発現パターンを比較した。マウスと比較して、トラザメやニワトリでは鼓膜の形成位置に相当する第一咽頭嚢に対して、Bapx1の発現がより腹側にあることを明らかにした。この結果、哺乳類中耳の形態進化において鼓膜が本来の下顎の骨格要素に付着した背景には、哺乳類の祖先において一次顎関節の背側へのシフトがあったことが推測された。
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Nature Communications
巻: 6 ページ: 6853
10.1038/ncomms7853