脊椎動物の後方組織は体軸の後方伸長に伴い尾部先端の尾芽に存在する前駆細胞から形成される。ゼブラフィッシュ胚発生において後方体幹部および尾部の沿軸中胚葉組織は尾芽表層に位置する中胚葉前駆細胞(MPCs)から分化する事が知られている。MPCsの未分化性の維持にはWntシグナル活性が必須である事が知られている。一方MPCsからの沿軸中胚葉の分化には2つの転写因子sptとmsgn1の冗長的な機能が必須である事が筆者らにより明らかにされていた。本研究において筆者はこのような沿軸中胚葉分化誘導機構の一端を明らかにするため、msgn1の発現制御機構に注目して研究を行った。 まず、msgn1のプロモーターを単離し、培養細胞を用いてその活性を解析した結果、msgn1プロモーターはwnt、ntlといったMPCsで活性化している因子により正に制御される事が明らかになった。この事は、未分化なMPCsにおいてすでに分化促進因子msgn1の発現が開始する条件が整っているものの、何らかの機構でmsgn1の発現が抑制されており、実際の分化時にはその抑制が解除されることにより、msgn1の発現が開始し、沿軸中胚葉が分化する事を示唆していた。研究代表者らはそのようなmsgn1の発現抑制機構を明らかにするため、MPCs領域で特異的に発現する転写抑制因子voxに注目して解析を行った。MPCsにおいてvoxはmsgn1とは排他的に発現しており、培養細胞においてwntシグナル依存的なmsgn1プロモーターの活性化はvoxの発現により抑制されることから、MPCsにおいてmsgn1の発現はvoxにより抑制されている可能性が示唆された。しかし、hsp制御下でvoxを発現するトランスジェニックフィッシュを作成し、実際のin vivoにおけるvoxのmsgn1の発現に対する影響を解析した結果、培養系でみられたような抑制的効果は認められなかった。これらの結果から、in vivoにおいてMPCsでのmsgn1制御においてvoxの関与について確認する事はできなかった。
|