脊椎動物の背腹軸は、オーガナイザーから分泌される二つの背側化因子Chordin、Nogginの濃度勾配に従って構築される。しかし、これらは同じBMP阻害活性を保持しており、何故二種類の分子が背腹軸形成に必要か明らかにされていない。本研究課題では、これら二つの分子が胚内で形成する空間分布に注目して研究を行った。濃度勾配の形状は主に産生・拡散・分解によって制御されている。発生過程においては、これら3つの要素が同時並行的に動的に変動していると考えられるが、定量的な解析を困難にしている。そこで、産生量が一定のChordinまたはNoggin勾配を人工的に胚内に形成し、背腹軸の再構成系を構築した。その結果、Chordin(急勾配)とNoggin(緩勾配)は胚内において異なる勾配形状を示す事が明らかとなった。このような、勾配形状の違いを示す可能性として拡散または分解の違いが考えられる。そこで、ChordinとNogginの拡散速度、分解速度を定量したところ、Chordinは拡散速度、分解速度が早く不安定であった。一方、Nogginは拡散速度、分解速度が遅く、非常に安定であった。このように、同じ活性を示す二つの分子が異なる空間分布を示すことにより、異なる制御機序に寄与している可能性が考えられる。ChordinにはChordin分解酵素が存在し、さらにこの分解酵素に直接結合し阻害するSizzledが知られている。そこで、背腹軸の再構築系を用いてSizzledを過剰発現し、Chordinの分解速度を遅くしたところNogginと同様の勾配形状を示した。これらの結果は、Nogginと異なり、Chordinは分解を介して動的に勾配形状を変動している可能性を示している。実際、このようなChordin勾配の即応性により、胚サイズ依存的にChordin勾配の形状が適切に構築される過程を明らかにした。
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