本研究は、動物の形態形成機構の進化について解明することを目的としてきた。特に、棘皮動物の発生過程における体軸形成や成体原基形成機構に注目し、実験発生生物学的・分子生物学的アプローチにより、研究を進めてきた。 その中で、サンショウウニ科に属する4種が、発生初期に左側外胚葉領域に形成される細胞塊から成体原基を形成していくことを発見した。この細胞塊は、羊膜陥による成体原基形成を行う他種と同様に、Nodal阻害、Delta阻害、塩化リチウム処理および16細胞期に形成される小割球の除去実験により、左右極性が攪乱された。一方、ある種のクモヒトデ類やヒトデ類の発生に対するNodal阻害による、左右極性の攪乱への影響は認められなかった。 細胞塊形成種において、様々な微細手術の結果、細胞塊は予定口側外胚葉領域から形成されることが明らかとなった。しかしながら、その領域の単離した場合、細胞塊は形成されなかった。一方、羊膜陥を形成する一種の部分胚では、羊膜陥は自律的に形成された。また、細胞塊は吸引除去した場合、新たに再生されることが明らかとなった。 最終年度は、細胞塊と他の器官との相互作用について追跡した。原腸胚期の予定体腔嚢部分や、発生後期に細胞塊と体腔あるいは水腔を除去した場合も、細胞塊は自律的に再生した。細胞塊を連続除去した場合においても再生が確認された。しかしながら、再移植した場合は、新たに細胞塊が形成され、細胞塊と水腔との位置関係が重要であることが示唆された。一方、動物極側領域が持つ細胞塊を形成する運命は、間充織胞胚期までに植物極側からの誘導を受けて決定されることも明らかとなった。 ウニ類の成体原基形成の進化において、特にサンショウウニ科のウニ類は非常に再生能の高い細胞塊を介した形成機構を導入した。その結果、発生初期から成体原基形成を行うことを可能にしただけでなく、環境圧にも耐えうる再生能を獲得したと考えられる。
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