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2012 年度 実施状況報告書

進化過程における新規な組織器官の形成メカニズム:魚類育児嚢の進化

研究課題

研究課題/領域番号 24770231
研究種目

若手研究(B)

研究機関上智大学

研究代表者

川口 眞理  上智大学, 理工学部, 助教 (00612095)

研究期間 (年度) 2012-04-01 – 2015-03-31
キーワード分子進化 / タツノオトシゴ / 育児嚢 / アスタシンファミリー / レクチン
研究概要

タツノオトシゴはオスが腹部に育児嚢と呼ばれる袋状の器官を持ち、メスが育児嚢内に卵を産み、オスが精子を放出して受精させる。受精した卵はオスの育児嚢内で胎盤様構造と呼ばれる組織に包み込まれている。オスは稚魚になるまで胚を保護し、その後「出産」する。
タツノオトシゴHippocampus abdominalisを実験材料に用い、以下に示す3つの異なる段階の育児嚢よりRNAを抽出した。(1)育児嚢が形成されてまだ間もない未成熟期のオス(2)繁殖が可能な求愛活動中のオス(3)メスから卵を受け取り卵を保育中のオス。1と2、1と3、あるいは2と3のオスで発現している遺伝子を比較したときに、3のオスもしくは2と3のオスで発現量が高ければ卵を受け取って保育の間に働く遺伝子と予想される。そこで、1~3のオスの育児嚢から抽出したRNAよりcDNAを合成した後、次世代シーケンサーを用いて全cDNAの部分配列を決定し、発現量を各オスで比較したところ、保育に関わる候補遺伝子を100個単離した。
次世代シーケンサーで決定した塩基配列は遺伝子の部分配列であり全長配列はわからない。そこで、RACE PCR法により、保育に関わる遺伝子の全長配列の決定をおこなった。本年度は、5つの遺伝子についてその配列を決定した。タツノオトシゴと同じ目に属するヨウジウオの育児嚢で発現しているアスタシンファミリーに属するpatristacin、マウスの胎盤などで発現しているcollectin placenta、3種類のC型レクチンCTL1、CTL2、CTL3である。
さらに、候補遺伝子の様々な組織器官での発現をRT-PCR法で調べた。育児嚢で特異的に発現していれば、育児嚢での保育に直接関わる遺伝子であることが期待される。現在までのところ、100個中18個の遺伝子が育児嚢で特異的に発現していることを明らかにすることができた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

タツノオトシゴの育児嚢で発現し、保育に関わると予想される遺伝子のうち、5つの遺伝子に関してはcDNA全長配列を決定できた。このほかにも候補遺伝子をすでに約100個見つけており、遺伝子のクローン化を行いその機能解析を進めていくうえでの基礎を固めることができており、研究はおおむね順調に進んでいる。本年度は、関連した論文を2報投稿しており、論文執筆も順調に進んでいる。

今後の研究の推進方策

1.3種類のC型レクチンの働きの解明:レクチンは糖結合タンパク質で、一般に静菌作用を示すことが知られている。タツノオトシゴの育児嚢は閉鎖環境であるため、もしもバクテリアが繁殖してしまうと保育している卵が死滅してしまう可能性がある。レクチンはバクテリアの繁殖を抑える作用をしているのかもしれない。そこで、全長のクローン化を行ったC型レクチンCTL1、CTL2、CTL3の組み換えタンパク質を作製し、その機能の違いを明らかにする。まず、クローン化したcDNA断片を発現ベクターに組み込み、3種類のCTLの組み換えタンパク質を作製する。作成した組み換えタンパク質を用いて、大腸菌の増殖阻害が起こるのかを調べることで静菌作用を示すのかを明らかにする。また、それぞれどの糖と特異性を示すのかを調べ、3種類のレクチンの違いについて明らかにしたい。さらに、組み換えタンパク質から抗体を作製し、その発現局在についても調べる。
2.タツノオトシゴのアスタシンファミリー遺伝子の進化:patristacin遺伝子は現在のところ、タツノオトシゴとヨウジウオからしかクローン化されていない。両者はいずれも育児嚢を持つヨウジウオ目の魚であり、ヨウジウオ目の進化過程でpatristacinが生じたのかもしれない。まずはタツノオトシゴが持つすべてのアスタシンファミリーの遺伝子のクローン化を行い、分子系統解析を行うことで、patristacinの進化過程を明らかにする。
3.育児嚢で保育に関わる遺伝子の探査:前述した卵保育期の育児嚢で特異的に発現している遺伝子18個の全長塩基配列の決定と類似性の探査を行う。

次年度の研究費の使用計画

1.3種類のC型レクチンの働きの解明:C型レクチンの組み換えタンパク質の作成は少なくとも2種類の発現ベクターを用いて行う予定である。ベクターにはMBE融合タンパク質(pMAL Protein Fusion and Purification System、80,000円)および、GST融合タンパク質作製用発現ベクター(pGEX-6P-3、69,400円;GST融合タンパク質精製用カラムGlutathione Sepharose 4B、165,000円;GST融合タンパク質切断用プロテアーゼPreScission Protease、23,900円)を用いる。その他、サブクローニング用の酵素類や抗体作成用の消耗品などを購入予定である。
2.タツノオトシゴのアスタシンファミリー遺伝子の進化:タツノオトシゴの各臓器から抽出したRNAを用いてcDNAを作製し、アスタシンファミリーの遺伝子のクローン化を行う。クローン化用の試薬として主に、cDNA作成キット(SMART RACE cDNA Amplification Kit、168,000円)、PCR試薬(Ex-Taq、88,000円)、塩基配列決定用試薬(BigDye、123,500円)などを購入予定。
3.育児嚢で保育に関わる遺伝子の探査:タツノオトシゴの育児嚢から抽出したRNAを用いてcDNAを作製し、アスタシンファミリーの遺伝子のクローン化を行う。購入試薬は主に上述の2と同じキットを使用する予定。
1~3に記載したものに加えて、PCR用のプライマーやカラムなど、分子生物学用試薬・用品を購入する。

  • 研究成果

    (13件)

すべて 2013 2012

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (8件) 図書 (2件)

  • [雑誌論文] Sub-functionalization of duplicated Genes in the evolution of nine-spined stickleback hatching enzyme.2013

    • 著者名/発表者名
      Mari Kawaguchi, Hiroshi Takahashi, Yusuke Takehana, Kiyoshi Naruse, Mutsumi Nishida, and Shigeki Yasumasu
    • 雑誌名

      Journal of Experimental Zoology Part B: Molecular and Developmental Evolution

      巻: 320 ページ: 140-150

    • DOI

      10.1002/jez.b.22490

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Adaptive evolution of fish hatching enzyme: One amino acid substitution results in differential salt dependency of the enzyme.2013

    • 著者名/発表者名
      Mari Kawaguchi, Shigeki Yasumasu, Akio Shimizu, Norio Kudo, Kaori Sano, Ichiro Iuchi, and Mutsumi Nishida
    • 雑誌名

      The Journal of Experimental Biology

      巻: 216 ページ: 1609-1615

    • DOI

      10.1242/jeb.069716

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Inferring the evolution of teleostean zp genes based on their sites of expression2013

    • 著者名/発表者名
      Kaori Sano, Mari Kawaguchi, Satoshi Watanabe, Yoshitomo Nagakura, Takashi Hiraki, Shigeki Yasumasu
    • 雑誌名

      Journal of Experimental Zoology Part B: Molecular and Developmental Evolution

      巻: 未定 ページ: 未定

    • 査読あり
  • [学会発表] タツノオトシゴのアスタシンファミリープロテアーゼ遺伝子の探査2013

    • 著者名/発表者名
      今福愛子・川口眞理
    • 学会等名
      第65回日本動物学会関東支部大会
    • 発表場所
      東京
    • 年月日
      20130316-20130316
  • [学会発表] タツノオトシゴcollectin placenta遺伝子のクローン化と組換えタンパク質の作成2013

    • 著者名/発表者名
      木浦知香・川口眞理
    • 学会等名
      第65回日本動物学会関東支部大会
    • 発表場所
      東京
    • 年月日
      20130316-20130316
  • [学会発表] タツノオトシゴの育児嚢で発現している遺伝子の網羅的解析2013

    • 著者名/発表者名
      宮地央・川原玲香・河野友宏・川口眞理
    • 学会等名
      第65回日本動物学会関東支部大会
    • 発表場所
      東京
    • 年月日
      20130316-20130316
  • [学会発表] Inferring the evolution of teleostean zp genes based on the site of expression.2012

    • 著者名/発表者名
      Kaori Sano, Mari Kawaguchi, and Shigeki Yasumasu
    • 学会等名
      International Symposium on the Mechanisms of Sexual Reproduction in Animals and Plants. Joint Meeting of the 2nd Allo-authenticating Meetinga and the 5th Egg-Coat Meeting (MCBEEC)
    • 発表場所
      Nagoya, Japan
    • 年月日
      20121112-20121116
  • [学会発表] トゲウオ類における孵化酵素の遺伝子重複による機能分化2012

    • 著者名/発表者名
      川口眞理・高橋洋・西田睦・安増茂樹
    • 学会等名
      第83回日本動物学会
    • 発表場所
      大阪
    • 年月日
      20120913-20120915
  • [学会発表] トミヨ孵化酵素LCEの卵膜分解における機能分化2012

    • 著者名/発表者名
      川口眞理・高橋洋・西田睦・安増茂樹
    • 学会等名
      第14回日本進化学会
    • 発表場所
      東京
    • 年月日
      20120821-20120824
  • [学会発表] 魚類の卵膜構成タンパク質とその遺伝子の進化2012

    • 著者名/発表者名
      佐野香織・川口眞理・安増茂樹
    • 学会等名
      第14回日本進化学会
    • 発表場所
      東京
    • 年月日
      20120821-20120824
  • [学会発表] Sub-functionalization of duplicated genes during evolution.2012

    • 著者名/発表者名
      Mari Kawaguchi, Hiroshi Takahashi, and Shigeki Yasumasu
    • 学会等名
      Stickleback 2012 7th International Conference on Stickleback Behavior and Evolution
    • 発表場所
      Seattle, Washington, USA
    • 年月日
      20120729-20120803
  • [図書] Oxford: Academic Press2013

    • 著者名/発表者名
      Shigeki Yasumasu and Mari Kawaguchi
    • 総ページ数
      5
    • 出版者
      Choriolysin H. In Neil D. Rawlings and Guy S. Salvesen, editors: Handbook of Proteolytic Enzymes
  • [図書] Oxford: Academic Press2013

    • 著者名/発表者名
      Shigeki Yasumasu and Mari Kawaguchi
    • 総ページ数
      4
    • 出版者
      Choriolysin L. In Neil D. Rawlings and Guy S. Salvesen, editors: Handbook of Proteolytic Enzymes

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公開日: 2014-07-24  

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