本年度はタツノオトシゴの育児嚢の形態を観察することでその形成過程を明らかにし、さらに、卵保育中の育児嚢で特異的に発現している2つの遺伝子に注目してその局在を明らかにすることを目的とした。 タツノオトシゴの育児嚢の発達段階ごとに形態を観察した。ヘマトキシリン・エオシン染色、および、昨年度までに明らかにできたC型レクチンを育児嚢のマーカーとして用いた免疫組織染色により、育児嚢の形成過程を観察を行い、腹部の上皮層が陥入して育児嚢が形成されていくことがわかってきた。今後は以下に示す2種類の育児嚢特異的な遺伝子をマーカーに用いて、育児嚢の形成初期から詳細な観察を進めていく予定である。 育児嚢特異的な遺伝子の1つとして、新規なコラーゲン遺伝子をすでに見出している。そこで、本年度は、タツノオトシゴの全ゲノム配列を次世代シーケンサーにより決定し、in sillicoクローニングにより、他の魚類が持つコラーゲン遺伝子と相同な遺伝子を探査し、得られた配列を用いて系統解析を行った。その結果、タツノオトシゴは他の魚類が持つすべてのコラーゲン遺伝子を持ち、育児嚢特異的なコラーゲンはコラーゲン15もしくは18遺伝子のコラーゲンドメインが重複して生じたことが示唆された。 また、パトリスタシン遺伝子が育児嚢特異的に発現していることも昨年度までに報告している。しかしながらパトリスタシン遺伝子の局在や機能についてはまだ明らかになっていない。そこで本年度はパトリスタシン抗体を用いて免疫組織染色を行ったところ、育児嚢の上皮層に局在していることが示唆されたが、シグナルが弱く、今後さらに解析を進める必要がある。また、昨年度までに明らかにした育児嚢を持たないプラティーのパトリスタシン相同遺伝子の発現局在や機能の解析も進め、これらの知見を合わせて考察することにより、パトリスタシン遺伝子の進化過程を明らかにしたい。
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