研究概要 |
本研究では、タンザニアマハレ山塊国立公園において、観光客・レンジャー・研究者からの人由来感染症が類人猿のチンパンジーに感染しているか明らかにすることを目的としている。当該年度は、タンザニアでのフィールドワークは行わず、初度末に現地で採材したサンプルの分析を行った。現地で採取した糞からIgAを抽出し、ELISA法で22頭中9頭の糞からIgAの存在を確認できた。次に、本研究の当初の目的であるヘルペスウイルス科の主要なウイルスである、単純ヘルペスウイルス(HSV 1&2)、EBウイルス(EBV)、帯状疱疹水痘ウイルス(VZV)、サイトメガロウイルス(CMV)について抗体の保有率をELISA法をもちいてスクリーニングした。その結果、ヘルペスウイルス科においてはEBVとCMVにおいて抗体の上昇が確認されたが、HSV 1&2およびVZVについて抗体は検出されなかった。また、ヘルペスウイルス科以外の病原体にも百日咳菌(B. pertussis)およびパラインフルエンザウイルス1,2,3(PIV1,2,3)において調べた結果、それぞれにおいて抗体が検出された。B. pertussisにおいては5頭において陽性を示し、そのうち1頭の抗体価は高い値であった。PIV1,2,3においては8頭で陽性を示し、7頭において高い値を示した。つまり、タンザニアマハレ山塊国立公園に生息している野生チンパンジーにはその種特異的と思われるEBウイルスおよびCMVの感染が認められたのと同時に、人由来感染症であるB. pertussisおよびPIV1,2,3に感染している可能性が示唆された。 これらの結果から、タンザニアマハレ山塊国立公園においてはこれまで報告されたヒトメタニューモウイルスだけでなく他の人獣共通感染症が野生チンパンジーに感染して病気を引き起こす可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画では、野生のチンパンジーに最小限の影響で回収できるサンプルである糞を用いた疾病のスクリーニングの有効性を示すことを念頭に置いた。まず昨年度タンザニアのマハレ山塊国立公園において採取した野生チンパンジーの糞サンプルからIgAの抽出を行い、IgAも保存されていることが確認できた。次のステップとして、その抗体が認識する病原体を調べた。野生チンパンジーにおいても通常より感染している可能性の高いヘルペスウイルス科のウイルスとともに、人においてのみ感染が知られているウイルスについてスクリーニングを行った。それら5種類のウイルス(EBウイルス、サイトメガロウイルス、帯状疱疹水痘ウイルス、単純ヘルペスウイルス1&2)について分析を行い貴重なデータを得ることが出来た。また、これら以外の人由来感染症であるB. pertussisおよびPIV1,2,3に感染している可能性を示すことが出来たため、当初の目標としていた成果が得られている。
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