本研究では,世界中から収集されたオオムギ遺伝資源を材料に,オオムギの栽培域を東アジアに拡大させた遺伝的な適応機構について,東アジア特異的に局在する高度秋播性に着目し,進化的・分子的な実態の解明を目的とする. 実施計画に従い,(1) 春播性遺伝子のリシークエンス,(2) 秋播性程度を決める新規遺伝子座の探索を実施した. (1)前年度に実施した春播性遺伝子座のリシークエンス解析結果に基づき,栽培オオムギの標準品種群(n=274)を対象に高度秋播性品種群が属するハプロタイプ群の地理的分布を調査した.その結果,VRN1は特定のハプロタイプ群が,高度秋播性が分布する極東アジア地域に局在することが明らかとなった.一方VRN3では特定のハプロタイプ群が春播性が大部分を占める西域一帯に局在しており,栽培オオムギにおける春播性遺伝子の分布パターンが明らかとなった. (2) 前年度に検出した秋播性程度に関わるQTL解析について詳細に検討した.その結果,VRN1近傍に見出されたQTLでは極東アジアに局在するアリルが低温要求度を低下させる効果を持つと推定された. 以上の結果から, オオムギ品種群が東アジアへの栽培域の拡大の過程で獲得した高度秋播性は,春播性遺伝子で見出された一部のハプロタイプ群と未知の春化応答遺伝子座とが複雑に相互作用して発現することが示唆された.本研究で見出された新規春化応答遺伝子座の分子実体や進化動態を明らかにすることにより,将来的にオオムギ品種群が東アジアへの栽培域の拡大の過程で「適応的」に獲得した遺伝機構の実態に迫れると期待できる.
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