研究課題/領域番号 |
24780013
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
荒木 卓哉 愛媛大学, 農学部, 准教授 (10363326)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | イネ / アンモニア態窒素 / 硝酸態窒素 / 乾物生産 / 窒素吸収 |
研究概要 |
施用窒素形態としてアンモニア態窒素と硝酸態窒素の比率を変化させた場合のイネ根からの窒素吸収および乾物生産特性について検討するために,農業資源生物研究所(NIAS)コアコレクション69系統を用いて,施用無機窒素形態とアンモニア態(NH4+-N区)のみとした条件と硝酸態(NO3--N区)のみとした条件で水耕栽培し,移植後14日目に乾物生産および窒素吸収能力について調査した. NH4+-N区およびNO3--N区における全乾物重の平均値に基づいて,4つのグループ,すなわち,全乾物重を供試系統の平均値よりも①NH4+-N区およびNO3--N区で高い無機態窒素感受性の系統,②NH4+-N区で低くNO3--N区で高い硝酸態窒素嗜好性の系統,③NH4+-N区およびNO3--N区で無機態窒素非感受性の系統,④NH4+-N区で高くNO3--N区で低いアンモニア態窒素嗜好性の系統に分類した.その結果,①に5系統,②に20系統,③に19系統,④に25系統が分類された.分類した各々のグループで,②では,とくにDavo1とDahongguにおいてその傾向が顕著であった.③では,ARC11094のNH4+-N区における全乾物重が②のDavo1とDahonggu と同程度であったにも関わらず,NO3--N区では供試系統中最も低い値を示した.アンモニア嗜好性が高い④では,Hakphaynhayにおいてその傾向が最も顕著であった.無機態窒素を積極的に吸収する①に分類された5系統はいずれも,やや硝酸嗜好性が強いもしくはアンモニア嗜好性が強い傾向を示した.また,NIASコアコレクションの内,NipponbareとKasalathを用いて,無機態窒素の施用割合を7段階に分けて調査した結果,NH4+-N:NO3--Nが4:6の時に乾物生産および窒素吸収が最大となった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題初年度の最大の目標は,実験系の確立,NIASコアコレクション69系統を用いた無機態窒素(NH4+-NおよびNO3--N)に対する乾物生産および窒素吸収特性に基づいた分類および無機態窒素施用割合(NH4+-N:NO3--N)に対する乾物生産および窒素吸収特性の評価であった. 実験系は,移植後の水耕による供試材料の実験実施までの14日間の栽培,処理方法および実験実施に関する調査方法について,予備実験を十分に行うことで確立した.無機態窒素(NH4+-NおよびNO3--N)に対する乾物生産および窒素吸収特性に基づいた分類は,NH4+-N区およびNO3--N区における全供試系統の全乾物重の平均値に基づいて,4つのグループに分類し,その中で特徴的な系統を選出することができた.これらの系統は,次年度以降に実施する研究で用いる系統であるために,重要な成果である.さらに,69系統中の2系統を用いて,無機態窒素施用割合(NH4+-N:NO3--N)を7条件で調査した時の全乾物重および窒素吸収特性の結果からNH4+-N:NO3--N=4:6が最適であることを明らかにした.この結果は次年度以降の無機態窒素嗜好性の評価を行う上で,NH4+-N:NO3--Nの対照区として用いることでより詳細な解析が可能になる. 以上のことより,研究初年度に掲げた目標はおおむね達成されたものと評価できる.
|
今後の研究の推進方策 |
本課題2年目においては,初年度において無機態窒素嗜好性について特徴的な傾向を示した8系統を供試して研究を遂行したい.具体的には,根域温度の違いに対する窒素吸収特性,光合成反応特性および無機態窒素代謝関連酵素活性への影響について解析したい.一般に,イネの生育に適した根圏周辺の温度は約30度であるとされている.しかし,西日本での早生および中生品種の水稲移植栽培では,田植えは6月中下旬には終了する.移植直後から分げつ期までの根圏温度は適温に達することが少なく,適温より低い環境で生育している.一方で,熱帯亜熱帯地域において3期作を行っている地域では,年中田植えを行っており,根圏の温度は適温より高いことも考えられる.したがって,根圏からの養分吸収について検討するためには,酵素反応速度理論に基づいた解析が重要である.そこでまず,NH4+-N区およびNO3--N区において,根圏温度を15℃から35℃まで5℃ごとに5条件設け,窒素吸収に関する根圏水温反応モデルを構築する.また,根および葉における無機態窒素代謝関連酵素(硝酸還元酵素,グルタミン合成酵素およびグルタミン酸合成酵素)活性を分析する.この無機態窒素代謝の一部はエネルギー依存型であるが,そのエネルギーは葉身の光合成由来であると報告されていることから,個葉光合成速度およびクロロフィル蛍光消光についても評価する.さらに,窒素安定同位体(15N)を用いて吸収された無機態窒素の個体内の動態を分析する.以上の分析ならびに測定から,個体内の窒素利用に関する地上部および地下部の相互作用について解析するとともに,系統間差異について検討する.
|
次年度の研究費の使用計画 |
本課題2年目における研究においては,測定,分析に関わる消耗品の購入が中心となる.具体的には,安定同位体分析および酵素活性測定に関する試薬,ガス交換測定および供試材料栽培において必要な資材等である.また,2年目においては根圏温度の制御が研究遂行のための鍵となる.根圏温度の装置システムを構築する必要があるが,制御が十分であるかを予備実験で十分に検討し,必要であれば改良のための物品を購入したい.また,研究成果は所属学会主催の講演会において積極的に報告を行う予定である.所属学会である日本作物学会の講演会が9月に鹿児島,3月に千葉で開催予定であり,日本生物環境工学会の講演会が9月に高松で開催予定であるので,成果発表に必要な旅費として研究費の一部を拠出したい.さらに,本課題初年度の成果について早急に論文として取りまとめたい.その際の英文校閲費および投稿および別刷り費としても拠出する予定である.
|