水稲栽培において,水利用の高度化を図る場合,根圏が酸化的環境に曝される期間が長く,硝酸態窒素の吸収能力が生育に影響すると予想される.そこで本研究では,農業生物資源研究所世界のイネコアコレクション(NIAS-WRC)69品種を用い,アンモニア態窒素と硝酸態窒素を単独施用で栽培した場合の乾物生産および根の諸形質に対する生態型・品種間での比較を行った. 全乾物重はいずれの生態型も硝酸区においてアンモニア区よりも有意に高い,もしくは高い傾向にあり,T/R比は硝酸区において有意に低くなった.総根長,根表面積および根体積は,硝酸区において有意に高い値を示した.このことから,硝酸態窒素施用条件において根の成長は促進されることが示唆された.生態型を比較すると,indicaは両窒素処理区においてjaponicaおよびtropical japonicaよりも乾物生産に優れており,特に硝酸区において有意に高かった.一方,japonicaとtropical japonicaは乾物生産および根の諸形質において両生態型間で有意差は認められなかったが,根表面積当たりの窒素吸収速度ではjaponicaがアンモニア区で,tropical japonicaが硝酸区で有意に高い値を示した.これらのことから,乾物生産および窒素吸収能力は,アンモニア区ではindicaおよびjaponica,硝酸区ではindica およびtropical japonicaで高くなると示された.品種間比較では,硝酸区において高い生育を示す品種としてDavao1,MuhaおよびJhona2,両窒素処理区において低い傾向を示す品種として日本晴,BasilanonおよびRexmont,高い傾向を示す品種としてDeng Pao Zhai,BingalaおよびVandaranが挙げられた.以上のことから,施用無機態窒素に対するイネの初期生育には生態型および品種間差異が認められ,特に硝酸態窒素施用条件では,根を伸長させ窒素吸収を有利にすることで,旺盛な乾物生産を行っていることが明らかとなった.
|