近年、将来の高CO2濃度([CO2])においては「植物の硝酸利用が抑制される為、肥料としてのアンモニア態窒素の重要度が増す」と提案された(Bloomら、2010、Science)。本研究では将来増加する[CO2]を高度利用する施肥法の方向性を示す為に、数種作物の乾物生産や窒素濃度の高[CO2]応答に硝酸およびアンモニア態窒素がどのような影響をおよぼすのかを調査し、高[CO2]下で見られる窒素濃度の低下と吸水や窒素吸収能の関係性について解析した。 エンドウとホウレンソウを対象に、通常[CO2]および高[CO2]と、アンモニア供給区および硝酸供給区を組み合わせた条件で水耕栽培し、栄養成長期の乾物生産、窒素濃度を調査するとともに、水耕液中に15Nでラベルされたアンモニア態と硝酸態窒素を添加し、24時間の吸水速度と15N吸収速度を調査した。これまでに得た結果と同様に、両種において硝酸供給区でのみ高[CO2]による乾物重の増加が確認された。窒素濃度は、エンドウでは両窒素供給区で[CO2]の影響を受けなかったが、ホウレンソウでは硝酸供給区でのみ高[CO2]による低下が見られた。個体当たりの吸水速度は、エンドウでは[CO2]の影響を受けなかったが、ホウレンソウでは硝酸供給区でのみ高[CO2]による増加が見られた。個体当たりの15N吸収速度は、両種において硝酸供給区でのみ高[CO2]により増加した。これまでに、ホウレンソウにおいて、硝酸供給区で高[CO2]により葉の硝酸還元活性が低下し、硝酸濃度が上昇することを明らかにした。本種における高[CO2]下での窒素濃度の低下は、吸水や窒素吸収量の低下では説明できず、硝酸還元能の低下あるいは炭素蓄積による希釈に因るものと考えられた。本年度の結果もまた「高[CO2]においては硝酸利用が抑制される為、アンモニア態窒素の重要度が増す」を支持しなかった。
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