エリコイド菌根菌は子嚢菌門に属し,ツツジ科植物の細根に菌根を形成する.本菌根は土壌中の栄養塩類の吸収と宿主植物への輸送などの機能を有し,ツツジ科植物の条件不利地域における自生を可能とするものである.我が国で自生もしくは栽培されているツツジ科の果樹はブルーベリー,ナツハゼなどであるが,根系に共生する菌根菌の群集構造や機能には不明な点が多い.そこで我が国に植生するツツジ科果樹を対象とし,菌根菌の感染状況の把握と菌種を同定した. ブルーベリーについて,東京都(クロボク土),京都府(灰色低地土),島根県(黄色土および灰色低地土)に栽植の‘Tifblue’のhair rootに共生する菌根菌叢を調査した.その結果,我が国で栽培されているブルーベリーのhair rootにはエリコイド菌根菌が共生しており,菌叢は産地毎に異なることが示唆された.また,東京都内で挿し木繁殖したブルーベリーの個体について,hair rootの菌根化率は一年生苗と比較して二年生苗で,さらに同一樹齢では二次根と比較して一次根(Valenzuela-Estradaら,2008)で高いことが明らかになった.さらに,挿し木繁殖に用いたピートモスの種類により,菌根菌叢が異なることが示唆された.次に新潟県,東京都,京都府,島根県に自生するナツハゼについて,自生地土壌のpHおよび根の直径分布と菌根化率,菌叢を調査した.その結果,ナツハゼの自生地土壌のpHは4.4前後であり,1および2次根の直径はそれぞれ40~55μm,60~75μmと,典型的なhair root様の形態を示すことが明らかになった.また,hair rootの菌根化率は1および2次根でほぼ100%と非常に高かった.菌根菌叢について,根系より合計35種の共生菌を検出し,これはブルーベリーの根系から検出されたもの(合計9種)よりも多いことが明らかになった.
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