研究課題/領域番号 |
24780023
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
北村 嘉邦 信州大学, 農学部, 助教 (90578139)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 花葉 / 蒸散量 / 維持現象 |
研究概要 |
維持現象の誘導が起こる開花ステージ:70%遮光条件下で管理した‘エンドレスサマー’を用い、花葉の着色直後、非装飾花の開花中、装飾花の開花中、全小花の開花終了後の4段階の開花ステージの花序を各10本、ミスト処理した。その結果、すべての花序について、がく片が原形をとどめないほどに腐敗し、維持現象は発現しなかった。他の調査に用いるべく管理していた植物体を用いて再試すると、装飾花の開花以降にミスト処理した花序の約80%の小花で維持現象の発現が認められ、維持現象が発現せずにがく片が枯死しても、通導組織が残存する例が多く認められた。再試に用いた植物体は55%遮光したハウスで管理したものであった。以上より、強度の遮光条件下では維持現象が発現せず、遮光率の違いによる維持現象発現の有無には通導組織の物理的な補強が大きく寄与する可能性があり、平成25年度に詳細に調査する必要がある。 維持現象の誘導頻度の品種間差: 43系統を用い、ミスト処理条件下で維持現象の誘導頻度を調査した。その結果、多くの系統でがく片が腐敗したが、数系統では維持現象の誘導が認められた。前にも述べた通り、植物材料の管理法によって維持現象の発現頻度が大きく変化することが明らかになっており、遮光率が異なる処理区を設定した上で、平成25年度に比較調査を行う必要がある。 維持現象の発現に伴う花葉からの蒸散量の変化:ミスト処理を行わず、70%遮光条件下で管理した植物体上で維持現象を発現した12系統について、がく片背軸面での気孔伝導度を計測し、維持現象誘導前の値と比較した。その結果、調査した全系統において、維持現象誘導前の値と比較して維持現象誘導後の値が高くなった。平成25年度には、気候伝導度の上昇と切り花の花持ちとの関連について、より詳細に調査する予定である
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
維持現象の誘導が起こる開花ステージ:ミスト処理法の考案に至った予備調査では、55%遮光条件下で管理した植物体を用いていたが、平成24年度の調査では葉やけの発生等を考慮して70%遮光条件下で管理していた。その結果、維持現象の発現には不適な環境条件で調査を行うことになり、十分な量の材料を用いて調査を行うことができなかった。しかしながら、遮光程度が維持現象の誘導の有無を決定する重要な一要因であること、遮光程度の違いによる維持現象の誘導の有無には通導組織の構造が関与することを、新たに明らかにした。 維持現象の誘導頻度の品種間差:概要は上の「維持現象の誘導が起こる開花ステージ」と同様である。しかし、70%遮光条件で管理しているにもかかわらず、ミスト条件下で維持現象が誘導される系統を見いだしており、これらの系統と他の系統における維持現象の誘導に要求する環境条件の違いを詳細に検討することで、維持現象の誘導に伴うがく片の物理的、生理的な変化の詳細に迫ることができると考えられる。 維持現象の発現に伴う花葉からの蒸散量の変化:調査した全系統において、維持現象誘導前の値と比較して、維持現象誘導後の気孔伝導度が高いことを明らかにした。これまでに、維持現象誘導後の花葉における気孔伝導度の上昇を報告した調査はなく、予想外に興味深いデータを得ることができた。なお、本調査は平成25年度に実施予定の調査を前倒しで行ったものである。 以上から、各調査においてこれまでに得られていなかった新たな知見が得られているが、当初計画の遂行程度としては完遂できているとは言いがたい。よって、自己評価は、やや遅れている、とする。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度に行った調査の再調査および、当初計画の遂行を予定している。詳細は以下の通りである。 維持現象の誘導が起こる開花ステージ、維持現象の誘導頻度の品種間差:70%遮光および55%遮光したハウスで管理した植物材料を用いて再試する。特に、遮光条件の違いによる通導組織の物理的な補強の有無に着目し、維持現象の誘導の有無との関連を詳細に調査する。 維持現象の発現に伴う花葉からの蒸散量の変化:55%遮光したハウスで管理した植物材料を用いて再試する。気孔伝導度の上昇と切り花の花持ちとの関連について、より詳細に調査する。 維持現象の誘導頻度の品種間差と花葉からの蒸散量との関係、維持現象の誘導頻度に品種間差を与える花葉の形態学的な特徴:当初計画の通り、維持現象の誘導に伴う花葉からの蒸散量の変化、維持現象の誘導頻度の品種間差、維持現象の誘導頻度に品種間差を与える花葉の形態学的な特徴について、調査を遂行する予定であるが、形態学的な調査に関しては、新たに通導組織の物理的な補強の有無に注目して調査を行う。
|
次年度の研究費の使用計画 |
維持現象の誘導が起こる開花ステージ、維持現象の誘導頻度の品種間差、維持現象の発現に伴う花葉からの蒸散量の変化:遮光条件が異なる二処理区を用意するため、遮光資材および、新たに設定する55%遮光区として用いるパイプハウスを更新する資材を購入する。また、来年度に向けた植物材料の調製に用いるために、培養土、プラスチック鉢、肥料、農薬などの資材を購入する予定である。 維持現象の誘導頻度の品種間差と花葉からの蒸散量との関係、維持現象の誘導頻度に品種間差を与える花葉の形態学的な特徴:花葉の形態学的な特徴を組織構造から捉えるために、組織切片を光学顕微鏡および透過型電子顕微鏡によって観察する予定である。よって、組織切片の作製に要する試薬、機器を購入する予定である。
|