本研究の第一の目的である農的に活用された市街地内緑地の実態については,前年度に引き続き長崎県長崎市の都市住民を対象とした農的利用状況に係るアンケートの解析を進め,農的利用が行われる空間特性を明らかにした.その結果,貸し農園は人口密度が高い市街地が,家の庭やプランタでの野菜づくりは人口密度が低い市街地において行われることが多いことが明らかにされた.また人口密度が高い市街地においては,貸し農園を今後行いたいと考えている都市住民が多く潜在していることが推察された. 第二の目的である農的に活用されている市街地内緑地の環境保全機能の評価については,前年度も行っている長崎県長崎市の都市住民を対象とした農的利用状況と環境保全意識・活動に係るアンケートの解析を進めたところ,農的利用を行っている都市住民はゴミの減量に取り組んでいることが多いことが明らかにされた.本結果は,農的利用が行われた市街地内緑地が生ゴミ由来の有機性廃棄物堆肥の受け入れ先になることによって,環境負荷の削減に寄与している可能性を示唆するものといえる. 第三の目的である市街地内緑地の農的活用の維持・推進に資する政策の検討をめぐる主要な成果については,長崎県長崎市の都市住民を対象としたアンケートの解析結果と大都市圏の類似の先行研究との比較から,政策の検討に向けた指針を考察した.具体的には,地方都市にて都市住民の農的利用を自宅敷地外の緑地の管理手段として計画に位置づける際には,大都市圏と比べて限られた量にしか寄与しないことに留意する必要がある.しかしながら農的利用に関心を持つ都市住民は一定数存在しており,人口減少による大量発生が想定される市街地中心部の非建ペイ地を農園に整備する等,自宅敷地外の非建ペイ地に農的利用への関心を実行に誘導させるための方策を検討することが必要である等が考察された.
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