研究課題/領域番号 |
24780026
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
黒江 美紗子 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 特任助教 (30612965)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 耕作放棄 / 農業生態系 / 生物多様性 / 里山 / カエル |
研究概要 |
1本研究は、農業生態系で急増する耕作放棄地が、これまで維持されてきた生物多様性にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることを目的としている。なかでも、サシバやコウノトリ、ヘビなど多くの上位捕食者を支えるカエルを対象に、放棄面積や放棄年代が野生動物個体数にどのような影響を及ぼすかを明らかにした。 当該年度に行った広域的な野外調査から、放棄地が少ない地域では放棄面積が増えるとカエル個体数も増えるが、放棄地が多い地域では放棄面積の増加がカエル個体数の減少につながるという、相反する関係性が明らかとなった。これは、耕作放棄は水田生物に負の影響を及ぼすという、これまでの予測の半分を否定する結果であり、放棄地の量によってカエルへの影響の正負が逆転するという重要な現象が示された。耕作を停止した分、カエルも減少するという単純な関係性ではなかったことから、放棄地がカエル個体数を増加させるプロセスを明らかにすることが、極めて重要となった。この増加プロセスについては、個体の行動観察や栄養段階を推定する安定同位体実験というアプローチを用いたことで、1)カエルは放棄水田をエサ場として利用していること、2)放棄水田の近隣では、カエル密度が高くなることが明らかとなった。つまり、耕作放棄がもたらす影響には、カエル個体数を増加させるプロセスと減少させるプロセスがあり、これら複数のプロセスが複合的に影響することで、両者間により複雑な関係性が創出されているのである。 本研究は、放棄がカエル個体数にもたらす影響を予測する際、正負どちらの影響をもたらすかという予測性の大幅な改善を実現しただけでなく、日本の里山環境で生物多様性がどのように維持されているかについて土地利用が組み合わせの効果を実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
野生動物個体数を明らかにする野外調査については、当該年度に十分なデータを採取することができた。その一方で、室内実験および論文の受理については、当初の予定より遅れが見られる。なかでも室内実験については、年度途中に申請者が所属先を異動することになったことが遅れの一因としてあげられる。新しい所属先では動物の骨切片を用いた齢査定を行うための実験環境がなく、実験に必要な薬剤や装置を新たに購入して、遅延状況を打破する必要があるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度は、野外データの採取と解析、および安定同位体比分析が終了した。今年度は、当初より予定していた土地利用のデジタルデータの整備や放棄地についての管理状況や遷移段階を明らかにする現地調査を行う予定である。現地調査については、稲作を実施している6月から9月までの期間中、1~2週間ほど秋田に滞在して実施する。遅れがみられる室内実験については、新しい赴任先で実験スペースを確保することができたため、実験器具および薬品を購入し、実験を進められるよう環境を整えつつある。実験作業については、アルバイトを雇うことで効率を高め、遅れが生じた分を調整できると考えている。デジタルデータの整備についても、アルバイトを雇い効率化を図る予定である。 本テーマの最終年度になったことから、研究成果を内外に発信する必要があると考えている。特に耕作放棄は、生物多様性を脅かす要因として注目されつつも、実証例が極めて乏しく、多様性に負の影響をもつだろうという予想が先行しがちな状況にある。これについては、耕作放棄が及ぼす影響を体系的に扱ったシンポジウムや集会を開催する予定である。すでに昨年度行われた生態学会やJAでの研究会では、様々な分類群に対してどのような影響をもたらすかを紹介する集会を主催し、来年度に向けての足掛かりを作っている。企画応募型の国際シンポジウムや集会での受理にむけ、国内外の研究者との成果報告を行い、体系化を進める予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は大きく分けて、現地調査、実験環境の整備、実験補助のアルバイト、英文校閲の4項目に研究費を用いる予定である。研究対象地であった秋田から九州大学へ異動したため、秋田での土地利用調査や打ち合わせを行う際の移動費や滞在費が必要になるだろう。また遅れがみられる実験環境を整えるために、実験器具と薬剤の購入に合わせて25万円ほどを使用する予定である。投稿論文の受理について遅れがみられるが、これについては現在執筆中の論文をよりレベルの高い英文校閲先に依頼をし、今年度内に受理を目指していきたい。また進捗状況を改善するため、遅れが見られる実験作業および今年度予定している土地利用データの整備は、効率を上げるためのアルバイトを雇う予定である。
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