■最終年度に実施した研究の成果 前年度に実施する予定であった植生調査を最優先に行った。調査地点は、これまでの調査から最も種多様性が高いと判断された京都府京丹後市の海岸域(3地点)とした。調査では幅2mのベルトトランセクトを汀線から内陸の海岸低木林またはクロマツ林にかけ複数設置し、各ベルトを2m×2mのコドラートに区分した後、出現種の種名と被度を記録した。また植生調査と並行して水準測量を実施し、汀線-内陸傾度における標高と地形の変化を記録した。このほか当初作成を予定した植生図の代替として、海岸生の絶滅危惧植物数種の生育位置をプロットし、その一部の分布図を作成した。 ■研究期間全体を通じて実施した研究の成果 山陰海岸国立公園とその周辺の海岸域を対象に、海浜植生、海岸風衝地植生、海岸断崖地植生における植物相調査、海浜植生に隣接する土地利用区分の調査、海浜の物理的特性の計測、土壌の粒度分析、管理・利用条件に関するヒアリング、種多様性の高い海岸域における植生調査、海岸生の絶滅危惧植物の分布調査を行った。これらのデータの解析から、海浜植物の種多様性は砂浜・砂丘の面積、海岸線延長、標高などと正の相関関係をもち、これらの属性が大きいほど高いこと、海浜生の絶滅危惧植物の出現は砂浜・砂丘の面積や海岸線延長と正の相関関係をもつほか、周辺の改変程度と負の相関関係をもち、開発により失われやすいこと、海浜植物の保全には空間的に大きく自然性の高い砂浜・砂丘の保護が第一に重要であり、それらの縮小、分断、平坦化は種多様性の低下や植物相の単純化を引き起こすこと、海岸域の中でも砂浜・砂丘の半安定帯と安定帯および海岸風衝地は海岸生の絶滅危惧植物のハビタットならびに保全の場として特に重要であることを明らかにした。これらの成果は生物多様性保全に配慮した海岸域の管理手法や利用方法の検討にあたり有用な知見である。
|