研究課題/領域番号 |
24780030
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研究機関 | 公益財団法人岩手生物工学研究センター |
研究代表者 |
今村 智弘 公益財団法人岩手生物工学研究センター, 細胞工学研究部, 研究員 (20468705)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 花卉 |
研究概要 |
Flowering Locus T (FT)は、花成を誘導するフロリゲンとして知られているが、近年では花成誘導以外にも多面的な機能を持つことが明らかになりつつある。我々は、これまでの研究から、多年生植物であるリンドウのFTオルソログ(GtFT)が花成を誘導する一方で、越冬組織の休眠調節に関与する可能性を見出した。すなわち、FTが時期や器官によって異なる機能を有することが示唆された。本研究では、多年生植物のFTを介した新たな生長調節理論の構築を目的とし、特に未知である休眠過程におけるFTの機能と作用機序を解明する。 本研究は、多年生植物のリンドウの越冬組織において、休眠過程で変動するGtFT1およびGtFT2の機能解明を目指している。平成24年度は、休眠過程におけるGtFT1、GtFT2の基礎的な知見を得るとともに、培養系リンドウを用いた解析系を構築した。その結果、越冬芽におけるGtFT1、GtFT2の発現誘導要因を明確にした。さらに、露地越冬芽の形質を培養越冬芽で再現することに成功し、培養系の確立に至った。平成24年度の研究成果として、2つ国際学会、1つの国内学会で報告し、現在、関連論文が査読中である。平成25年度は、前年度の成果を基に、休眠過程におけるGtFT1, GtFT2の相互作用因子の同定および直接制御因子の特定を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
リンドウ休眠組織でのGtFT1、GtFT2の機能解明を目指し、全体計画の、1) 休眠過程におけるGtFT1、GtFT2の相互作用因子の探索・同定、2) GtFT1、GtFT2が直接制御する下流遺伝子の特定を計画・実施する予定となっている。まず、1)、2)を実施するため、培養物を用いた実験系の構築と検証を行なった。その結果、培養越冬芽には、低温曝露による休眠打破、環境ストレス耐性、越冬芽マーカー遺伝子の発現が確認された。このことから、培養越冬芽の形質は、露地越冬芽と同質であること明らかとなり、培養越冬芽を用いた研究の妥当性を得ることができた。1)に関しては、培養越冬芽で、エピトープタグ付きGtFT1-FLAG、GtFT2-FLAGタンパク質の発現に成功した。現在、免疫沈降の条件検討を行なっている。2)に関しては、ChIP-Seqを実施するための条件を検討している。現在、培養リンドウで発現させたGtFT1-FLAG、GtFT2-FLAGタンパク質のChIP条件の検討を行なっている。条件確立後、ChIP-Seqを行なう予定である。 計画予定であった、LC-MS/MSを用いた相互作用因子の探索、次世代シークエンサーを用いたChIP-Seq解析は、実施することができなかった。しかし、実験条件が整いつつあるので、平成25年度に実施することが可能であり、GtFT1、GtFT2の相互作用因子および直接制御因子を特定することが可能である。研究経過は、計画より遅れているが達成可能な状況にあると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度から実施予定であったGtFT1、GtFT2タンパク質についての相互作用因子の探索および直接制御因子の探索は、培養越冬芽を用いた実験系の構築・評価、実験条件の最適化が充分なされたことから、相互作用因子の探索および直接制御因子の探索を迅速に行なうことが可能になった。平成25年度は、本研究の計画であるLC-MS/MSによる相互作用因子の探索ならびに次世代シークエンサーを利用したChIP-Seqによる直接制御遺伝子の探索を推進していく。 一方、露地越冬芽を用いたGtFT1、GtFT2の発現誘導要因の探索により、GtFT2は、長期の低温曝露(4℃、5週間以上)で発現が誘導され、休眠ホルモンであるABAでは応答しないことを明らかにした。一方GtFT1は、長期の低温曝露を施した越冬芽を萌芽処理したときのみ発現が誘導されることが明らかとなった。今後は、これらの知見を基にして、形質転換リンドウを用いた解析により、休眠組織におけるGtFTsの役割を明らかにしていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、越冬芽におけるGtFT1、GtFT2の相互作用因子および直接制御遺伝子の探索を中心に研究を進めていく。これらに用いる実験系は、前年度に確立されており、時間の制約を受けずに解析を行なうことが可能である。これらの解析のうち、相互作用因子の探索は、免疫沈降によって得られたサンプルの解析を外部委託する予定である。一方、直接制御遺伝子の解析は、所属研究所の次世代シークエンサーを使用する予定だが、近年の次世代シークエンサーの性能向上と価格低下により、受託解析も計画している。これらの研究には、サンプル維持や試料の調製に多くの労力と時間を要するため、研究費を用いて研究支援者を雇用することを計画している。得られた成果については、国内の学会発表や学術論文を通して公表する予定であり、学会参加費、外国語論文の校閲料金、投稿料および印刷料として研究費を使用する予定である。
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